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今回の記事は弁理士試験でも重要とされる均等論についてです。また、医薬品等業界関係者には非常に重要な判決となっています。

では内容に入りましょう。

 

中外製薬株式会社がオキサロール軟膏の有効成分「マキサカルシトール」の製法特許の侵害を理由とする、後発医薬品の製造販売の差止め請求訴訟を岩城製薬株式会社、高田製薬株式会社、株式会社ポーラファルマ、およびこれら後発医薬品の原薬の輸入業者であるDKSHジャパン株式会社の4社に起こしていましたが、先月の25日に、知的財産高等裁判所が、大合議の審理により、後発医薬品メーカー側の控訴を棄却する判決を言い渡し、同社の主張が全面的に認められました。

 

ジェネリック医薬品を製造販売する会社にとっては不利な判決となっています。逆に、新薬を研究開発する会社にとっては、研究開発のしがいのある判決であるとも言えます。

 

立場によって受け取り方が全く違ってきますが、一般の人への影響はあるでしょうか。

後発医薬品が容易に販売されないということは高い薬を買わなければいけないということになるのでマイナスになるでしょうか。

 

必ずしもそうとはいえないでしょう。

なぜなら、新薬製造会社は、特許化されていない技術についてもノウハウを持っており、そのノウハウを使ってこそ100パーセントの力を出せる薬を創りだせるからです。
公開特許技術だけを真似ても新薬と同じ薬を創りだせるとは限らないのです。

その他にもジェネリック医薬品にも問題点はありますが、それについては過去記事を見てください。

 

2015年には有効成分及び効能・効果が同一であり用法・用量のみが異なる医薬品に対する承認に基づく延長登録を認めるとする最高裁判決がでましたし、最近はジェネリックに厳しい傾向があるようです。

 

さて、本判決の内容について見てみる前に大前提として、医薬品の特許の種類についてお話しましょう。

まず、医薬品の特許には、「物質特許、用途特許、製法特許、製剤特許」があります。

 

そして、後発会社は新薬製造会社の物質特許と用途特許の特許権が切れてからジェネリック医薬品の製造販売を開始します。

 

しかし、製法特許と製剤特許については、延長登録出願により特許権の存続期間が残っています(詳しくは「特許権の存続期間と延長登録」を参照してください。

 

後発医薬品の成分は新薬と同じなのに効き目が違う可能性があるのは、この製法特許と製剤特許を回避するために異なる製法(いわゆる迂回発明)で作っているためです。

 

しかし、新薬の会社側から見れば、ちょっと迂回しただけで特許権侵害にならないのでは何のための特許なんだ!と思ってしまいます。

そこで、このような場合に、新薬製造会社が差し止め請求訴訟や損害賠償請求訴訟を起こすときに主張するのが「均等論」なのです。

 

均等論の5要件は、順番に①非本質的部分性 ②置換可能性 ③置換容易性 ④高知技術との同一性または容易遂行性 ⑤5意識的除外等の特段の事情 となっています。

 

侵害品と呼ばれているものが、この5要件全てを満たしている場合は、たとえ製造方法が異なっていたとしても、同一のものとみなされ、特許権侵害とされます。

 

中外製薬の訴訟では、侵害4社の軟膏の製法は、中外製薬の特許発明と完全に同じではありませんが、実質的に同等(=均等)であるかが争われました。そして、裁判官5人による「大合議」で審理を行い、「均等」の要件に関する判断を行いました。

 

そして知財高裁は、「特許発明の本質的部分(均等の第1要件)は、特許請求の範囲で、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分で、従来技術との比較と貢献の程度から認定されるべき」として、中外製薬の先行医薬品と後発医薬品の本質的な部分に違いはないと判断しました。

また、他の要件(均等の第2~第5要件)についても満たしているとし、4社の侵害を認定しました。

一番議論されたのは第1要件みたいですね。

第2~第4は軽く触れられているだけです。

 

第5要件については、少し触れておきましょう。

侵害者側は「容易にクレームできたのに、クレームしていないんだから意識的除外だ」と主張しているのですが、裁判所は「そういうわけではないだろう」と判断しています。
詳しい内容は判決文を読んでください。

 

判決文の中では他にも進歩性や優先権の主張、シス体とトランス体の違いなど重要な事柄について詳細に検討されていますので、勉強になると思います。