使い慣れているはずの言葉なのに、意味を間違えて覚えている語に出会った時、日本語って難しいなと感じます。

 

たとえば、「しおどき」「さわりの部分」「失笑」「姑息」「破天荒」など。

 

「そろおろ潮時だぜ。観念しな・・・」なんていうセリフをどこかで聞いたせいか、間違って覚えてしまっているのでしょう。

 

*この記事も旧ブログ「問題解決中」のものです。実際に書かれたのは2、3年ほど前です。

 

 

私が最近難しいと感じた言葉に「最善の策」があります。

 

この言葉の意味はお分かりになるでしょうか。

 

英語だと「best course of action」「best strategy」「the best policy」等と訳されます。

 

私は、今まで英語の訳に表現されているように「最も良い策」と覚えていました。

というよりも、「ベストな策」と覚えていたと言ったほうが正しいかもしれません。

「ベスト」って日本語ですからね。

 

そういうわけで、Trizによく出てくるIFR(理想的最終解)は「最善策」だと思っていました。

 

ところが、辞書を引いてみると、

 

「最善策とは、成しうる限りで一番良い方法。

 

問題解決策のうち、くだらない解決策を排除した後に残った平凡な解決策」

 

とあるではないですか。

 

ということは、全然「ベスト」じゃないんですよね。

 

best effort(最善の努力)が英訳として正しいのではないかと思います。

 

・・・って自分の無知を日本語訳のせいにしていますが(ーー;)

 

言葉の使い方の間違いって、よっぽどのことでない限り他人から指摘してもらえることなんてありませんし、自分では「これで正しい」と思い込んでいるわけですからなかなか直せません。

 

ですから、気づいた時には徹底的に学習しなおして記憶を塗り替えてしまわないと、後になって「あれ?前にこれ間違っていたってことは覚えているんだけど・・・正しい意味は何だったかな」ということしか覚えていなくて残念なことになってしまいます。

 

一番良いのは幼いうちにしっかりと正しい知識を学んで、生きた文脈の中で使って覚えていき、適時訂正していくことですね。

 

ところで、英語で話している時にcrack upという言葉を使う人がいますが(たとえば、「Don’t crack yourself up!(そんなに大笑いするなよ)」、これを「そんなに爆笑するなよ」と訳すと間違いになります。

 

些細な違いですが、意味が違ってしまうわけです。

 

後者のように訳してしまう人は英語に問題があるわけではなくて、日本語の理解不足になります。

 

この程度の誤訳ならたいしたことはないのですが、誤訳を特許翻訳の世界でやってしまうと大変なことになります。

 

なぜなら、特許というものは「アイデアを言葉で表したもの」だからです。

 

言葉が権利範囲の全てを決めます。

 

したがって、「蚊に効く殺虫剤」と「虫に効く殺虫剤」だと後者のほうが権利範囲が広く(上位概念であるため)、

前者は蚊に限定されてしまいます。

 

そして、技術にあまり詳しくない人が特許翻訳をした場合に悲劇はよく起こります。

 

英語よりも中国語訳の方が怖いかもしれません。

 

表面的には日本語と似ている分、「思い込みによる間違い」が起こりやすいからです。

 

一対一になる翻訳はよっぽど限られた文脈でない限り存在しません。

 

時と場合によって「ありがとう」の英訳は「Thank you 」にも「 You are wellcome」にもなるように、人によって翻訳は変わってきます。

 

だからこそ翻訳文は二次的著作物として著作権法で保護されるわけですし。

 

これからもテクノロジーの発展によって自動翻訳の精度は上がっていくでしょうが、人間が意訳したときのように微妙なニュアンスを伝えられる訳を機械ができるようになるまではまだ数年かかるでしょう(10年たったら相当のレベルの翻訳ができていそうな気がします)。