錯視やだまし絵は著作権法で保護されるのか

立命館大学総合心理学部 北岡明佳氏の考案した錯視やだまし絵のデザインが百円ショップダイソーで絵本として勝手に販売されていたとして問題になっているようです。

 

錯視やだまし絵だけでなく、模様や色のパターンといったようなものが著作権法で守られるのかということについてはアーティストやデザイナーの方々にとっては気になるところだと思います。

 

また、北岡氏も「錯視やだまし絵の作品・デザインの「知的財産」に関する北岡の見解」と題する記事の中で自己の意見を表明されています。

 

そこで、著作権法及び過去の判例に即して一般の方向けにご説明したいと思います。
(以下、『』で区切られた中の文章は北岡氏の文章からの引用です。)

北岡氏のHPより引用。錯視の例
北岡氏のHPより引用。錯視の例

著作物とは

まず、著作物とは何かについてですが、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条)です。

著作物とは
ここで、北岡明佳氏の考案した錯視やだまし絵が著作物に該当するかどうかということについてですが、「学術、美術の範囲に属するもの」と言って良いと思います。

 

北岡氏は

『錯視自体には著作権はないと考えます。丸や四角のようなものだと思います。』
と書かれていますが、著作権はあると考えた方が良いでしょう。

 

そう考えないと、以下に引用するような北岡氏の期待することは起こりにくいからです。

 

『錯視は誰かが発見・指摘・開発・報告等をしたものなので、特定の錯視をデモするデザインを公開する場合は、適切なクレジットが必要と考えます。

自分が新しく発見したと考える錯視の場合は、自分が発見者であると明示的に主張することがよいと思います。』

 

上記引用文から分かる通り、北岡氏はクレジットが表記されることを期待しています。これは著作者として当然の気持ちです。

 

このクレジットとは、著作権法でいうところの、著作者人格権「氏名表示権」(著作権法19条)に該当します。

 

したがって、北岡氏の期待するように著作権者の氏名を表示してもらうには、やはりだまし絵なども著作物として認められる必要があります。

 

 

『私は、私の錯視の作品・デザインについては、商業的目的でなければ、適切なクレジットを付ければ、使用料なしで使用して頂いてよいとしております。非営利的目的、すなわち教育目的(学校の授業で使う)、研究目的(研究用の材料・刺激として使う)、個人使用目的(PCの壁紙にする)等の場合はOKです。』

 

北岡氏はこのように述べていらっしゃいますが、著作権法には権利制限規定があるため、このような注意書きはなくとも、最初から教育目的や個人使用目的の場合には著作物を自由に使うことが許されています。

 

ダイソーの行為の正当性

では、錯視やだまし絵が著作物だったとした場合、ダイソーは著作権侵害者となってしまうのでしょうか。

 

ダイソーは北岡氏の考案した錯視やだまし絵を無断で複製しているわけですから、複製権(著作権法21条)を侵害していることになります。

”丸パクリ”しているわけですから、依拠性や類似性などを議論する必要はありません。

 

したがって、北岡氏はダイソーに対して損害賠償請求(民法709条)をすることができます。

刑事告訴もできます。ちなみに、法人が著作権を侵害した場合、3億円以下の罰金(著作権者にいくお金ではなく、あくまでも罰金)刑となっています。

 

恐らくは、ダイソー側から北岡氏に対して「著作物使用料」というような名義で和解金のようなものが支払われることと思います。

いつまでも支払われなかったら損害賠償請求をしてしまって良いでしょう。

 

 

というわけで、今回は「絵本」に錯視やだまし絵が無断で載せられたという事案でしたのでそれほど複雑ではありませんでしたが、これが「服やバッグのデザイン」として使われていた場合には、問題はかなり難しくなっていたはずです。

 

なぜなら、「デザインを保護してもらいたかったら意匠権を取れ。取らないなら権利を主張するな」というのが昔ながらの知財における考え方だからです。

とはいっても、最近はTRIPP TRAPP事件のように応用美術に著作物性を認める判決も出てきましたし、諸外国の判例を見ていると大丈夫そうな気がしますね。

 

なお、応用美術については知的財産権に関する法を全て一通り学んだ後で無いと理解することはできないので、一般の方は弁護士に相談するほうが良いでしょう。
(弁護士なら誰でも良いわけではなくて、ちゃんと知財の分野に詳しい人に聞くべきです。離婚や交通事故案件を扱っている人に聞いてもちゃんとした答えが返ってこなかった!と怒っても仕方ありません。知財に詳しい弁護士はレアです。)

 

まだ決定的な判決は出ていませんから、私もリンク先のサイトでは唯一応用美術の記事についてだけは「はっきりとはわからない」と書いています(笑)