*この記事は旧ブログ「問題解決中」の記事です。実際に書かれたのは2年ほど前です。

ナチス政権下において強制収容所で命を落としたアンネ・フランクの遺した日記は、第二次世界大戦におけるホロコーストに関する貴重な資料です。

このアンネの日記は1947年にアンネの父、オットー・フランクによって出版されました。
(最初の題名は「Het Achterhuis」。後に「The Diary of a Young Girl」と改題されています。)

現在ではアンネ・フランク財団がアンネの日記についての著作権を有しています。

EUの法では、著作権は「著作者の死後、70年間」保護されます。

アンネが亡くなったのは1945年なので(ヒトラーも同じ。だから、ヒトラーの「我が闘争」も今年いっぱいで著作権が切れます)、2015年いっぱいで著作権は満了し、2016年からは他の出版社も自由にアンネの日記を出版したりウェブに公開できることになります。

 

しかし、アンネフランク財団は、「アンネの父オットーとプレスラーによりアンネの日記は編集された。オットーが亡くなったのは1980年である。したがって、著作権は2050年まで存続する」と主張しています。

 

アムステルダムの「アンネの家」は、「アンネの日記は、アンネフランク以外に著作権者は存在しない」と主張しています。
そして、ウェブバージョンのアンネの日記の公開準備を進めています。

 

アンネフランク財団は、未だに著作権は2050年まで存続すると主張し、「財団はこの本の売上で資金を得ており、またUNICEFのようなチャリティーのために寄付している」と言っています。

 

さて、このアンネフランク財団の主張は正当なのでしょうか。

 

あと数週間で著作権が切れる、というときになって突然著作権は切れていない!と主張してきたくらいですので、財団も2015年で著作権が切れるのはやむを得ないと考えていたはずです。

しかし、主たる資金源であるアンネの日記の売上がなくなると、財団は存続が難しくなります。
そこで、苦肉の策として、「オットーの編集著作物」という理論を持ち出してきたように見えます(私の個人的見解です)。
ユニセフにも寄付しているんだし、我々の主張は正当だ!人のためになる!だから著作権を認めろ!と言っているように見えてしまいます。

 

さて、この「編集著作物」ですが、これは一体どのようなものなのでしょう。

 

簡単に言うと、「編集をした人に与えられる著作権」です。

そのまんま過ぎてわかりづらいので具体例をあげると、あるデータを集めて、工夫して並べたり編集した人に与えられる著作権です。
電話帳はただ単に電話番号が記載されているようにしか見えないかもしれませんが、実は番号の配列に工夫がしてあったりするので編集著作物として認められる場合があります。

 

このように編集著作物は、中に記載されているものが日記のような著作物であろうが電話番号のように非著作物であろうが発生します。

 

オットー・フランクの編集について見てみると、アンネの日記にあまり手を加えず、前書きを書いたり、不適切な部分を削ったり、ほんの少し編集しているだけのようです。

 

ここで、日本の例になりますが、編集著作物に関する判例があります。
高村光太郎に「智恵子抄」を書くように勧めた人に著作権は認められるかという事件です。

 

判例では、単に編集に関わっただけで、編集をしたのも著作をなしたのも高村光太郎自身であるとして、協力者に著作権は認めませんでした。

この判例をアンネの日記に当てはめてみると、オットー・フランクに編集著作物の著作権者の地位は認められいでしょう。

 

しかし、あくまでもこの判例は日本の例であり、EUでどのように判断されるかは分かりません。

 

私の推測に過ぎませんが、恐らくはオランダ語で書かれたオリジナルバージョンは、無事2015年で著作権が切れることになると思います。
オットー・フランクが編集したバージョンについては別に著作権が存続するという面倒くさいことになるかもしれません。

 

なお、オットー・フランクによってオランダ語からドイツ語に翻訳された本が出ています。
これについては、オットーが著作権者なので(二次的著作物)、2050年まで著作権が存続すると思われます。

 

なお、翻訳版に関しては、どの言語のものでも、その言語に翻訳した人の死後70年(日本では50年)まで保護されます。オットー・フランク以外の人もドイツ語バージョンを出しているので複雑ですね(^^;

 

というわけで、アンネが書いて何の手も加えていない状態のオランダ語バージョンだけは少なくとも来年から自由に利用することができるようになるでしょう。

 

題名からして「アンネの」日記なのだから、早急にパブリックドメインにしてしまったほうがいいとは思いますが・・・。
どうなるでしょう。

 

なお、翻訳者の死後一定期間を経っていない場合でも、ウェブにアップしたり出版する方法はあります。

 

それは、「原作のオランダ語バージョンから自分で直接翻訳する」ということです。

 

多分、原作が一番面白いと思います。つまらないので編集時にオットーが削った部分もありますが、性的描写が好ましく無いと出版社から指摘を受けて削った部分もありますから。
あと、過度に母親を攻撃する部分もオットーによって削られたのかな?

 

アンネは我々が想像する「戦下で耐え忍ぶ控えめな少女」ではなく、早熟で勝ち気な少女だったようですね。

 

おまけ:
記事を書きながら、「きっと星のせいじゃない」という映画で、主人公のヘイゼルと恋人オーガスタスがアムステルダムのアンネの家で初めてキスをして、周りの人から拍手喝采を浴びるというシーンを思い出しました。
ここでヘイゼル死ぬんじゃない?などと思いながら観ていたので意外な展開で楽しかったです。
あと、そのすぐ後のベッドシーンでも、ベッドで死ぬんじゃない?とそればかり気になってしまいました(笑)違う意味でドキドキww
純粋な恋愛映画を見たい人にお勧めですが、ヘーゼルがどこで死ぬかとかヴァンホーテンの方が気になってしまう人もぜひ(笑)。