一般の人たちの間では、「かつてない斬新な発明をして特許を取れば大金持ちになれる」という認識がされていますが、これは誤った考え方です。
斬新な発明をすれば儲かるわけではありませんし、斬新でない発明でも儲けることは出来ます。
その例として、今日はエジソンの話をしようと思います。
*この記事も旧ブログ「問題解決中」のものです。実際に書かれたのは2年ほど前です。
エジソンは、その名前があまりにも有名であるがゆえに、功績についてはかえって知られていないかもしれません。
エジソンは、「天才発明家」と思われていますが、「発明家」というよりも「事業家」でした。
歴史上多くの発明家はいましたが、エジソンほど発明を有効利用し、人々の生活に役立て、事業を成功させた人物はいません。
もちろん、全てエジソン一人でやったわけではなく、優秀なブレインである弁理士や知財コンサルタントの力添えがあったからあれほど偉大な業績をあげたわけです。
発明家に求められる能力と事業家に求められる能力は違います。
では、なぜエジソンはその両方の能力を持っていたのでしょう。
それは、今を遡ること147年、エジソンが21歳のときに初めて特許を取得したときのことです。
それは電気投票記録機に関するもので、議会における賛成票と反対票の数を集計し、投票にかかる時間を大幅に短縮できる画期的な発明でした。
しかし、実際には「少数派の議員による牛歩戦術ができなくなる」という理由で採用されませんでした。
このように、どんなに優れた発明でも、実際に使われない発明には存在価値がないのです。
エジソンはこの苦い経験を通じて、いくら素晴らしい発明でも人々が喜んでくれなければ何の意味もない事を痛感しました。
しかし、若いうちにそのような経験をしたおかげで、人々の意見や要望をよく聞いてから発明に取り組むようになり、結果として「優れた発明」だけではなく「実際に役に立つ発明」をすることになります。
企業でも、つい「新規な発明さえすれば収益があがる」と短絡的に考えてしまいがちですが、どんなに素晴らしい発明をしてもその発明が実際に人々の生活を豊かにするものでなければお金に結びつきません。
また、逆にどんなに些細な改良発明や用途発明でも、それが人々の生活を便利にするのなら、十分にイノベーションを起こせますし、収益にも貢献します。
この良い例が白熱電球です。
白熱電球の発明者はエジソンである と思われていますが、実際に白熱電球を発明したのはジョゼフ・スワンです。
エジソンはフィラメントに京都の竹を使った改良発明をしただけです。
では、なぜ単なる改良発明をしただけなのに、エジソンは後世に白熱電球の発明者として名を残すことになったのでしょうか。
それは、エジソンは「電灯の事業化」に成功したからです。
発明しただけ、特許を取っただけでは、休眠発明・休眠特許になるだけです。
そして、維持費がかかる分、休眠特許の存在は経営を圧迫します。
ジョゼフ・スワンの発明は、斬新なものでしたが、長持ちせず、一般家庭に普及させにくいものでした。
エジソンは、このスワンの白熱電球を長持ちさせる改良発明をしました。そして、白熱電球を一般家庭でも使えるようにし、事業を通じて人々の生活を便利にしたからこそ、「電球の発明家」として後世に名を残しました。
ですから、エジソンは本当は「白熱電球の事業家に成功した人」という認識のほうが正しいのですが、途中を端折って、「電球の発明者」として認識されているわけです。
ジョゼフ・スワンからしてみれば、「そんな馬鹿な・・・!」と開いた口がふさがらなくなりそうですが、それだけ「発明を事業化する」ことの重要性は大きいわけです。
ですから、ちょっとズルく見えるかもしれませんが、「かつてない斬新な発明」をすることに情熱を燃やすよりも「既存の発明の改良発明」や「用途発明」をして「人々の生活を便利にする」方が、眠っていた発明に新たな命を吹き込むことが出来、結局はお金になります。
もちろん、ただの改良発明では、猿真似企業の汚名を被せられてしまう可能性がありますから、そう認識されるのを防ぐためにもブランドや意匠といった別の知財を活用する必要があります。
アップルがやっていることも悪く言えば猿真似の部分が多いですが、ブランドや意匠をうまく活用しているために、人々はアップルを「革新的な会社」と認識していますから。
スティーブ・ジョブズも、エジソンと同じように知的財産(エジソンの場合は発明でしたが、ジョブズの場合は主にデザインという知的財産でした)を生み出すだけでなく、その生み出した知的財産を利用して稼ぐ方法を考えたビジネスモデル創造の達人です。
さて、エジソンといえば、白熱電球と並んで、蓄音機の発明でも有名ですが、エジソンは蓄音機を発明したときに、どのように事業家するかについて悩み、しばらくは商業化せずに放っておいたそうです。
歴史を知っている私達から見れば、蓄音機は「金のなる木」なのでこんな優れた発明を眠らせておくのは愚かにしかみえませんが、蓄音機が発明された当時の状況に置かれてみたら、どのように商業化すればよいかなんて容易には考えつかないでしょう。
ちなみに、エジソンが考えた蓄音機の用途は以下のようなものです。
1.口述筆記(速記者が必要ない)
2. 音の本(目の不自由な人のため)
3. 話し方の教育用。
4. 音楽の録音・再生
5. 遺言を録音
6. 玩具(オルゴール)
7. 帰宅や食事の時間を知らせる
8. 発音を録音し保存
9. 講義を録音。単語の記憶用
10. 電話と組み合わせ、通話を永久保存
4の用途で使われるのが一般的ですが、エジソンが初めに思いついた用途は、口述筆記や耳で本を読むという用途だったのですね。
このように、一つの発明でも複数の用途が見つかることが通常です。
ですから、社内に何の役にも経っていない休眠特許がある場合には、特許年金の支払いのときに放棄を検討する前に、その発明に別の用途はないか考えてみてください。
新規な発明をすることだけが自社の競争力を高めるわけではなく、自社や他社の休眠特許に命を吹き込むこともまた知財戦略なのです。
エジソンと知財戦略についてはこちらもどうぞ。
用途発明のアイディアの出し方については否定弁証法で用途発明をご覧ください。