小笠原製粉株式会社の人気ラーメン「キリンラーメン」が新しい名称を募集しています。
名称を変更する理由は「大人の理由」としていますが、各種メディアによると飲料大手のキリンから商標の使用を禁止するようにという警告を受けたようです。
単純に、
「自分の商売と関係ないキリンラーメンを訴えるなんてキリン株式会社は感じ悪いな」と飲料大手のキリンを責めたり、
「キリン」は単なる動物の名前だからキリン株式会社のものではないと考えたり、
「動物のきりんと麒麟は違う」と考えたり、
逆に、
「有名な会社と同じ名前を使っているんだから訴えられるだろうな」と考える人もいるでしょうし、
「指定商品」という概念(知的財産管理技能検定3級レベル)を学んだことのある人は、
「キリン株式会社ってドリンクの会社じゃないの?ラーメンとは関係ないよね?なんで訴えるの?」
と思うことでしょう。
これについて、商標法的見地からご説明したいと思います。
まず、動物のきりんと麒麟は違いますが、称呼(法律用語です。日常語で言うと、読み方。)が「きりん」で同じなので同一・類似商標となります。
それから、キリン株式会社は防護標章登録を受けています。
この防護標章というものは、簡単にいうと、「実際には使わない商標でも、すごく有名な商標なら登録することができる防御と攻撃専門の権利」です。
(リンク先の私の知財サイトで詳しく説明しています)
飲料大手のキリンはラーメンの販売は行いませんが、超有名なキリンと同じキリン商標を使われると出所の混同が生じてしまうので、使っていなくても「ラーメン(正確に言うとラーメンではないけど)」についての「キリン」を保護しているのです。
この防護標章登録に基いて権利者(ここではキリン株式会社)は「キリン」の商標を使用する者に対し、差止請求などの権利行使をすることができるのです。
だから、飲料大手のキリンが防護標章登録を取っていたら、やっていることは正当な権利行使であって、全然悪いことじゃないんですよ。
だって、関東の人は、キリンラーメンを知らない人が多いので、「キリンビールがラーメンを作るのか?」と思ってしまいますよね。
そう思われては困るんですよ。
著名商標の商標権者としては。
まあ、時期的に権利行使するには遅すぎますが・・・。場合によってはキリンラーメンには先使用権が認められるでしょうね。
その場合は、愛知限定で販売ということになりそうですね。
小笠原製粉さんはキリンの絵のついたどんぶりやグラスを販売していますし、キリンのついたグラスでドリンクを飲まれるということは、キリン株式会社としては止めてほしいですしね・・・。
いずれにせよ、大企業が中小企業をイジメてるという主張は完全に的外れです。
補足しておくと、
今回キリンがキリンラーメンに警告したことにより、
「サッポロビールはサッポロ一番を訴えても良いのか」
「アサヒビールが朝日新聞を訴えても良いのか」
と考える人も出てきそうですが、サッポロ一番も朝日新聞も商標登録を受けているのでそんな事態は起こりえません。
このような正当な権利に基いて権利行使をしているキリンを責めてはいけません。
責めるなら、キリン株式会社には役員に女性が全然いなくて女性は出世できないとかそういうことで責めましょう。
追記:記事を書いた後に調べてみたら、過去に小笠原製粉株式会社さんは、飲料大手のキリンさんに対し、不使用取消審判を請求して敗訴していました。そして、それに対し、さらに審決取消訴訟を起こしていましたが、これも敗訴していました。
キリンラーメンの小笠原製粉株式会社さんは創業明治40年というのですからかなりの老舗です。
キリンラーメンで商標登録出願しておけばこんなことにはなりませんでした。
名称変更により、昔からのファンは同じラーメンだと認識できなくなり、購入をためらってしまう可能性も大いにあります。
これにより失う利益はどれだけのものでしょうか。
商標登録というものがどれだけ大事なものか今回の事例からよくわかります。
本当に勿体無い・・・。これは小笠原製粉株式会社さんのミスでした。こんなに可愛らしいキリンラーメンを販売しているのに、本当に勿体無い。
商標登録にかかる料金なんて微々たるものです。しかし、商標登録をしなかったことにより失う利益は莫大なものとなります。
新名称はぜひ商標登録してほしいと思います。
さて、現在募集されている新名称ですが、「キリンラーメンシリーズ」については、「動物園ラーメン」「アニマルラーメン」「動物ラーメン」という単純なものがいいかもしれませんね。
ただ、キリンのラーメンについてはちょっと困ります。
キリンをひらがなにした「きりん」はもちろんのこと、「KIRIN」も当然いけません。
キリンを英語にしたジラフなら可能ですが、ジラフだと、まだ日本語になっていないので(猫を英語にしたキャットは日本語になっています)、購入者に一瞬「?」と思わせてしまいます。
「キリンさんラーメン」だと、キリン株式会社の商標「キリンさん」の存在が気になりますが、まあ、指定商品は違うから大丈夫でしょう。
「キリンちゃんラーメン」だと雰囲気が変わりすぎて良くないですね。
どうせなら「首長(くびなが)ラーメン」とかね・・・。
商標問題にもひっかからず、それでいて効果的な名称を考えることはかなり難しいといえます。
キリンラーメンという名称はシンプルで効果的な非常に優れた商標なので、これに匹敵するような新名称を生み出すことは相当困難でしょう。
せっかく人気のキリンラーメンシリーズ、出来ることならキリンラーメンのままでいてほしかったです。
しつこいですが、商標登録さえしておけばこんなことにならなかったのに・・・
という事例の最たるものですね(^^;
2018年7月21日追記:EXILEの「くまお」も商標権が理由で名称を変更したようです。オサレな名前に変わっていて悲しいw
そもそも訴えたのはキリンラーメンだと思うけど。
ネット上に商標法を知らない人達によるデマが拡散しているようです。私の記事も一部を切り取って利用(引用ではなく)されました。商標法をしっかり学べば、何が法的に正しいのか、そして何が噂に過ぎないのかということは理解できます。今回の件で「悪」なのは飲料のキリンでしょうか。それとも小笠原製粉でしょうか?
どちらでもありません。悪が存在するとしたら、自分で正しいことを判断する力が無いのに、「噂になっているから。みんなが言っているから」という理由でキリンや小笠原製粉を悪者に仕立てた部外者です。
ぜひ知財を学んでみてください。