とあるお寺に「商標権侵害」である旨の警告書が届きました。

理由は「仏壇じまい」という言葉をHPに載せていたからとのことです。

 

では、この警告に妥当性はあるのでしょうか。

 

結論は、

「一応は妥当」

です。

 

仏壇じまいという言葉は、ごく普通に使われている言葉です。

日常的にも使いますよね。

 

本来はこの指定役務(ウェブサイト上での手元供養品の販売など)で商標登録されるべき用語ではありませんでした。

 

しかし、特許庁の見落としにより商標登録されたと考えられます。

 

したがって、この商標登録は無効にできる可能性が高いといえます。(異議申立て期間は過ぎています)

 

なお、警告を受けたお寺は「仏壇じまい」の言葉をHPから消して「お仏壇仏具じまい」という言葉に書き換えたそうですが、こんなことする必要はありません(リスキーだから書き換えたほうがいいけど。無効にするまではこの指定役務での権利は有効だから。ただし、警告を受けたお寺は商標的に使用してはいなかったようです)。

 

商標的使用態様でない限り、商標権の侵害とはなりません。

(指定商品・役務についての商標の使用をしていないかぎり商標権の侵害とはなりません。ただし、「®を付けずに普通の言葉として使用することを禁止すること」は商標権者には認められます。

それに従わずとも商標権の侵害とはなりません。)

 

お寺のHPで手元供養商品の紹介をしていたとか納骨堂提供者の紹介をしていたというわけではなく、ごく普通に「仏壇じまい」という言葉を使っていただけなら権利の侵害となりません。

 

というわけで、まとめ。

 

・「商標的使用態様」でないなら仏壇じまいを使ってもOK(先使用権が認められるなら同様に使ってもOK)

・商標権を無効にしてしまえば誰でも自由に使える

 

以上です。

 

あ、ついでに「墓じまい」とか「家じまい」という言葉も商標登録出願中ですね。

これも上記と同じ結論になります。

 

普通名称化を防止するという観点から見れば、商標権者が「®表示をしてくれるようにお願い」をするのは良いのですが、既に普通名称であるものを過誤に近い形で登録されたことを奇貨として「言葉」の使用を止めさせるというのは商標法の目的に反するでしょう。

 

ところで、「家族葬」は特許庁に拒絶されたとか。

 

でしょうね。

 

追記:安心して「仏壇じまい」という言葉を使うためにも、関係者はこの商標登録を無効にしてしまったほうが良い気もします。これだけ一般的に使われている用語なら無効になりそうな気がします。(特許庁は「家族葬」は普通名称と判断し、「仏壇じまい」は普通名称とは判断しなかったのでダメかもしれませんが、以前からいろいろなお寺で「仏壇じまい」という言葉を使っていたのですし、その証拠を示せれば大丈夫そうです。(インターネット上にも様々なウェブサイトで「仏壇じまい」が使われています)

なお、登録から何年も経過してしまった場合には無効審判を請求することができなくなってしまいますが、その場合でも、「仏壇じまい」が後発的に識別力を失ったと判断された場合には「商標権の効力が及ばない範囲の使用」であるとして、普通に使っても大丈夫です。

本当は取消審判制度でもあればよいのでしょうが、現段階では濫用が危惧されるため日本国商標法には導入されていません。

 

追追記;今回の事件について似たような事例を考えてみました。(私が考えた事例であって、本当にあった事件ではありません。)
『裏切り的商標出願の例』

①食品会社や料理研究家たちのウェブサイトで「クーベルチュールチョコレート」という言葉を使われ、わりとクーベルチュールという言葉が一般的になってきた頃に、料理研究家の一人が「クーベルチュールチョコ」という言葉について商標登録出願をしたら、同業者は「は?!」と思うでしょう。

 

②美容・理容業界で「シャギーカット」が当たり前に使われているときにおいて、カリスマ美容師の一人が「シャギーカット」について商標登録出願したら、同業者は「独り占めする気!?」と思うでしょう。

 

仏壇じまいを商標登録した業者が商標登録した理由を「経営戦略上の理由」と述べていましたが、このような裏切り的な出願(突然同業他社の使用を制限する)をすると悪いイメージがつくので、経営戦略としてはマイナスだと思います。