昨日に引き続き知財の知識・改「弁理士編」で過去に配布していたレジュメです。
事例問題はいきなり答えを見ずに必ず一度自分の力で解いてください。そうしないと実力が付きません。
なお、知財の知識・改では他にも多くのレジュメが公開されています。
【問題】
八木秀次(以下、甲と呼ぶ)はアンテナAとその製造装置Bの発明をした。甲はそれらを明細書に記載してアンテナAの発明についての特許出願Pをし、出願審査の請求をした。特許出願Pの日から11か月後に、甲は製造装置Bを改良した製造装置Cの発明を完成させた。甲が製造装置の発明についても特許を取得したいと考えた場合において、甲が特許法上採り得る手続きについて説明せよ。
解答はスクロールして下です。
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【解答例】
1.国内優先権の主張
甲は、アンテナAの発明、製造装置Bの発明、製造装置Cの発明について特許出願Pに基づく国内優先権の主張を伴う特許出願(41条)をすることができる。国内優先権を主張すると、先の特許出願Pに記載されたアンテナAの発明及び製造装置Bの発明については、新規性(29条)等の特許要件の判断において、先の特許出願Pの時にされたものとみなされ(41条2項)、かつ、製造装置Bの改良発明である製造装置Cの発明についても一出願で包括的な権利取得が可能となる。
(1)国内優先権の主張の要件
①先の出願と後の出願の出願人が同一であること(41条1項)。本問においては、先の特許出願Pの出願人は甲であり、甲が後の特許出願をするので、この要件を満たしている。
②後の特許出願が先の特許出願の日から1年以内にされたものであること(41条1項1号)。本問では、先の特許出願Pの日から11か月経過しているのでこの要件を満たすが迅速に優先権の主張を伴った出願をする必要がある。
③先の出願が特許庁に係属していること(41条1項3号、同4号)。本問では、先の特許出願Pについて出願審査の請求をしていることから、先の特許出願Pについて査定が確定していないことが必要とされる。
④後の出願に係る発明が先の出願の出願当初の明細書等に記載されていること(41条1項)。本問では、後の特許出願に係る発明のうち、アンテナAの発明と製造装置Bの発明については、先の特許出願Pの出願当初の明細書等に記載されていることから、この要件は満たす。しかし、後の特許出願において新たに追加した製造装置Cの発明については、先の特許出願Pには記載されていないため、国内優先権の利益(41条2項)は認められない。
(2)手続き的要件
後の特許出願をする際には国内優先権の主張をしようとする旨及び先の出願の表示を記載した書面を特許出願Pの出願日から1年4月以内に特許庁長官に提出しなければならない(41条4項)。願書に当該事項を記載して当該書面の提出を省略することもできる(施行規則27条の4第3項)。
(3)発明の単一性について検討すると、アンテナAの発明、製造装置Bの発明及び製造装置Cの発明とは、2以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係を有している場合には、発明の単一性を満たす一群の発明に該当する(37条、施行規則25条の8第1項)。すなわち、アンテナAという同一の技術的特徴が先行技術に対する貢献を明示するものである場合には、発明の単一性の要件を満たすことができる(施行規則25条の8第2項)。
2.補正
(1)製造装置Bの発明については、特許出願Pの出願当初の明細書に記載されているので、これを特許請求の範囲に追加する補正は、新規事項の追加には該当しない(17条の2第3項)。
しかし、特許出願Pについて出願審査の請求がされているため、既に最後の拒絶理由通知がされた後である場合には、製造装置ロの発明を特許請求の範囲に追加する補正は17条の2第5項各号に掲げる目的のいずれにも該当しないため、当該補正はすることができない。
したがって、当該補正をすることができるのは、特許出願Pが特許庁に係属している場合であって、かつ、拒絶理由通知をまだ一度も受けていないか(17条の2第1項柱書)、受けていても最初のものである場合の意見書提出期間内(17条の2第1項1号)である。
なお、補正をする際には所定の様式に従って手続き補正書を提出することが必要である(17条4項)。
(2)製造装置Cの発明については、特許出願Pには記載されていないため、これを補正により追加することはできない。そのため、製造装置Cの発明については、別個独立の新たな特許出願をすることが考えられる。
ここで、特許出願Pに係る製造装置Bの発明と製造装置Cの発明とは、基本発明と改良発明との関係にあるので39条1項の同一発明の関係にはないものと解される。したがって、他に拒絶理由がなければ、製造装置Cの発明については別個独立の特許出願をすることにより特許を取得することができる。
3.分割出願と別途の独立した特許出願
(1)特許出願Pについてすでに最後の拒絶理由通知がされた後である場合には製造装置Cの発明を特許請求の範囲に追加する補正をすることができない(17条の2第5項)。そこで、製造装置Cの発明を分割することを検討すべきである。
分割の要件について検討すると、
①元の特許出願に2以上の発明が包含されていることが必要である(44条1項)。この点
特許出願Pには発明Aと発明Bが記載されているためこの要件は満たす。
②元の特許出願の一部を新たな特許出願とすることが必要であるが(44条1項)、製造装置Bの発明を分割することはこの要件を満たす。
③補正をすることができる期間内に分割をしなければならないが(44条1項1号)、最後の拒絶理由通知に対する意見書提出期間内であれば補正をすることができ(17条の2第1項3号)、かつ分割もすることができる。
なお、上記国内優先権の主張の時期を過ぎており、補正もしないまま特許査定された場合には、特許をすべき旨の査定の謄本の送達日から30日以内に限り分割出願をすることができる(44条1項2号)。これにより製造装置Bについても権利化を図ることができる。
(2)製造装置Cの発明については、前期と同様にして、別個独立の新たな特許出願をすることができる。 以上
【解説&福田ちはるからのメッセージ】
ごく基本的な問題ですから、受験生は皆重要項目(41条、補正、分割)については書いてきます。ですから、いかに丁寧にかつ事例に即して説明できるかが合否の分かれ目になります。
たとえば、41条では、優先権を主張する理由を「出願時の遡及効がある」と書いただけでは足りません。包括的で漏れのないというキーワードをしっかり示しましょう!
補正では、クレームアップという表現は使わないように気を付けてください。普段使っていても試験では使うべきでない言葉もあるのです。使うなら「いわゆるクレームアップ」というように、「いわゆる」をつけてください。
補正については基本レジュメのように最初の拒絶理由通知と最後の拒絶理由通知とで書き分けましょう。
発明Cについては別個独立の特許出願をする必要があります。
Bについて補正ができないときには分割をします。そして、本事例ではすでに元の出願日から11か月経過しているので特許査定後の分割にも触れておきましょう。実際にはそんなに早く特許査定されることはないでしょうが。
ちなみに出願Pはまだ出願公開されていないので発明Bからみた発明Cの進歩性については記載する必要はありません。
なお、八木秀次は八木アンテナの発明者です。