ある業界内で頻繁に使われるようになっている新語・流行語というものがあります。
そういった言葉は、まだ「普通の言葉」にはなっていないので、独占することができると、独占した人だけが使えるようになる(と思われている)ので、誰もが独占したいと考えます。
その手段として商標登録を目論む人がいます。
商標権を得ると、その商標を独占できるだけでなく、使いたい人に売ったりライセンスすることにより儲けることができるので、経済的に潤います。
そんなわけで、儲けるために商標登録を受けようとする人もいます。
このブログでも頻繁に登場しているベストライセンス社の上田氏が有名です。
さて、商標というものは、儲けるための他にも、「無関係の他者に使われないようにするため」「自社の事業を守るため」など様々な目的で取得されるため、商標登録を受けること=悪ではありません。
むしろ、事業者は積極的に商標を取っていくべきです(ただし、取得にはお金がかかるので、がむしゃらに取ればよいというものではありません。素人が見様見真似で自力で取得した商標権というものはあまり意味がない場合もよくありますから)。
私は、「商標登録をすべきかどうか」「どのように取るべきか」ということについてアドバイスすることがありますが、ブランド的観点などから考えてアドバイスをするので、場合によっては「商標を取らないでください」ということがあります。
それには、「お金がかかりすぎる」という理由もありますが、多くの場合は、「ブランドを傷つける可能性があるから」です。
冒頭に述べた新語や流行語について、言葉の生みの親であり自らの事業に使っている人では無い人が商標登録を受けようとすると、一般の方たちから大ブーイングを受けることになるので、「やるべきではない」「やるならリスクを考えるべき」とお伝えしています。
このブログでも、そのような例について述べてきましたが、(たとえば、商標を出願したものの、ブーイングをくらって出願を取り下げた例など)「取るべきではない商標権」というものは非常に多いのです。
さて、今日もちょっと問題になりそうな商標登録を発見しました。
それは、『困り感』という言葉の商標登録です。
これは、発達障害の子どもたちに寄り添う親や研究者の間で使われるようになった新しい言葉です。
この言葉が、学研によって商標登録されてしまったということで困っているという意見をチラホラと見かけました。
「本や講演会やブログの中で『困り感』を使えなくて困る」「言い換えをしなくてはいけないのだろうけど、どんな言葉が適切かわからない」という意見です。
そこで、『困り感』の商標登録について調べてみました。
すると、まず、商標権者は学研ではないことに気づきました。
個人の方が2016年9月15日に商標登録出願し、2017年6月2日に商標登録を受けていました。
指定商品は電子出版物や印刷物についてとられています。
そのため、書籍の題名にしてはいけないのだろうと心配してしまう人が現れてしまうと思います。
しかし、そんな心配は無用です。
誰もが「困り感」という言葉を書籍の題名として使うことはできます。
もちろん、論文や講演会で使うことも問題はありません。
要するに、このような商標登録があっても、同じ業界の人たちはあまり心配することなく「困り感」を使うことができるのです。
商標登録を受けても、その力は期待したように「言葉を独占」できるものではないのです。
したがって、誰もが比較的自由にこの言葉を使えることになります。
つまり、この商標登録は、発達障害児の支援をする個人や団体等が取得しても法律的にはあまり意味がないものなのになってしまっています。
ただし、商標法を知っていない一般の人を不安にさせる存在という意味では、意味のある商標登録といえるでしょう。
とはいえ、「困り感」を使って支援活動をしている個人や団体の活動を阻害してしまう可能性があることから、望ましい商標登録であるとは言い難いものです。
「他者の活動を阻害するため」ではなく「自社の事業を保護するため」商標登録を受けるのが最も炎上リスクが少ない商標登録の方法です。