花とゆめに読み切りで掲載された「ロマンスとバトル」が種村有菜氏の絵柄に似ているとして花とゆめ編集部が謝罪をしました。
これに対し、SNS上では、
「編集部が誘導して絵柄を似せるなんてサイテー」
「パクった漫画家の方が絵がうまいじゃん」
「パクった漫画家も被害者だよな」
と様々な意見が飛び交い、炎上しました。
そして、花とゆめ電子版では当該読み切り作品の掲載が中止されました。
この問題についての私の見解を述べたいと思います(正解でも無ければこう考えなければいけないわけでもありません)。
絵柄と著作権
まず、絵柄を似せることは著作権法的にどうなのかという疑問があると思います。
これについては過去記事で書いています。
絵柄と著作権
基本的に「絵柄」を真似しただけでは著作権の侵害とはなりませんが、編集部が種村氏の作品を当該漫画家に渡して「これに似せて書いてくれ」と注文をつけ、漫画家がそっくりに描いた場合には複製権、翻案権、同一性保持権の侵害となる可能性があります。
SNS上にアップされている絵を見ると、種村氏の絵にそっくりな絵を描いた漫画家さんは、元々の絵柄はかなり違います。
このことから、種村氏の絵を見ながら(トレースはしないまでも)女の子の絵を描いたのだろうということは容易に想像できます。
つまり、今回の事件は、
花とゆめ編集部が著作権侵害になる危険性を認識しておらず、原作者に許可を貰わず勝手に他の漫画家に原作者をdisる形で参考にさせてしまった
のが炎上の原因だったろうと思われます。
許可をもらっていればこんな炎上を起こすことはなかったと思います。
しかし、おそらくお願いしても許可はもらえなかったでしょう。だって、自分の絵柄を馬鹿にされているのですから。
許可がもらえないことが分かっていたからこそ編集部は独断でこのようなことをしてしまったのだと思います。
これが同人誌だったら、「面白い作品」で済んだと思います。
しかし、商業誌という人の目の厳しい場に作品が公開されてしまった。
・・・これは編集部の英断(と思われた行為)によって生み出された悲劇だと思います。
何より、種村氏には大ファンがたくさんついていました。
ファンにとって種村氏の絵は自分の命です。
その自分の推しを馬鹿にされたら嫌だろうということはオタクなら誰にでも分かるでしょう。
ガラスの仮面のなど80年代の絵柄は「ギャグ漫画」によく使われていますよね。
あの絵でシリアスはもう受け付けないよというのが主流です(読めば絶対に引き込まれるので私はガラスの仮面一推しです。なお、マサルさん辺りからこの流れが出てきたのかな?と思う元ジャンプ読者)。
少年漫画でいえば車田正美氏も古い絵柄に該当するでしょう。
シリアスな作品ほど茶化したくなるのが人の性かもしれません。
北斗の拳なんてパロディしたくなりますよね。
まあ、北斗の拳は公式がパロディをやっているから良いとしてパロディを公式が認めていない作品において勝手に馬鹿にしてパロディをするのはあんまり好きではありません。
板垣恵介先生の絵柄は古いとか新しいを超えて板垣しいとしか言えないし刃牙ラブなのでみんな、たくさんパロディしてくれ!という気持ちなのですが(自分でも何を言っているのかわからない)。
要するに、著作権って、財産権の他に人格権も守っていて、原作者が嫌だということは止めてくれよ!ということが出来る権利なんですよね。
そうであるならば、原作者をdisることは止めてほしい。
そう思うのが原作者とファンの気持ちだと思います。
特に種村氏は現役の人気漫画家さんです。
絵柄を馬鹿にするには少々早すぎました。
画力とか絵柄ってすごくセンシティブなことで、プロなら言われても仕方ないけれど、かなり応えることなんですよね。
であるならば、少なくとも現役漫画家さんのプライドを砕くようなギャグマンガやパロディは行き過ぎなんじゃないのかということですね。
たとえば、進撃の巨人とかキングダムは超面白いけど絵が好みじゃないという人はいるじゃないですか。
一度読み始めれば絶対にハマってしまうと思うのですが、絵が気になって読めない、と。
そういうときに画力の無さを批判をするのもいいけれど、批判するよりは素人が同人誌で本家を超える画力を以て二次創作(二次的著作物の創作)をするのも良いと思うのです。
どうせパロディするなら、冷笑するんじゃなくて、普通に笑える作品の方が良いですよね。
それと、出版社さんや編集部さんは著作権法はかなり深いレベルまで勉強しておいたほうがいいです。
リンク先の私のサイトでは無料で公開しているから読んで下さい。
著作権法、大事ですよ。
今回の騒動は、作者さんや編集者さんを擁護する発言が一般のみならずプロの人にも多く、法的な問題点はスルーで「えっ、そんな考え方で大丈夫なの?」とオタク界のモラルが心配になってしまいました。
私は種村先生の熱烈ファンという訳では無いですが、20年来のりぼんっ子なので例えば吉住先生や矢沢先生など自分の推し作家が「ロマンスとバトル」の大昔のコテコテな少女漫画の代表みたいに描かれていたら(昔の定番ネタをバカにする訳では無いです)本当に作品を見たことがあるの?作風を勘違いしていない?と違和感を受けショックだったと思います。
種村先生のファンもそういう思いだったでしょう。
また、種村先生や新條まゆ先生、池田理代子先生、美内すずえ先生など少女漫画界にセンセーションを巻き起こした男女共に有名な作家さんは、よく作風や絵柄をネット上でネタにされてきていて酷いなと思っていましたが、問題作もそういう「いじり」要素を感じて作品の完成度は良くても不快な気持ちになりました。
「この作家さんは絵柄後追いの人も沢山いるしパロによく使われてるからいいだろ、うけるだろ」と昔の典型的少女漫画展開とのミスマッチは度外視で安易に選択したような印象でした。
作家さんや絵を描く趣味な人は、今回の白泉社の謝罪でリスペクトしている先輩作家に絵柄が自然と似てるだけで糾弾されるようになるのではと懸念しているようですが、原作者を不快にさせるような悪ふざけととられかねない手法での絵柄の模倣とはまた別の問題だと思っています。また、作中には既存作品の模写もあったようです。
普段模写も含めトレス被害などに敏感な絵師さんが多い中、面白かったという点で編集者を庇う人が多い事に衝撃を受けました。
このブログを拝読し知財保護の観点などから冷静に問題を受け止められる人が増えたらなあと切に願います。
>問題作もそういう「いじり」要素を感じて作品の完成度は良くても不快な気持ちになりました。
同感です。最近の漫画家のほうが画力が上、昔の漫画家は下という意識が滲み出ているようで不快な気持ちになるのかなと思いました。
「今風」の絵を描かない人は馬鹿にされても仕方がないという風潮は好きではありません。
>作家さんや絵を描く趣味な人は、今回の白泉社の謝罪でリスペクトしている先輩作家に絵柄が自然と似てるだけで糾弾されるようになるのではと懸念しているようですが、原作者を不快にさせるような悪ふざけととられかねない手法での絵柄の模倣とはまた別の問題だと思っています。また、作中には既存作品の模写もあったようです。
絵柄が似ているだけで著作権侵害になることはありません。問題は原作者の絵の悪意ある改変(悪意が無ければ原作者は怒らない)です。それと、模写もしているのですね。これは複製権の侵害となります(著作権法21条)。
>普段模写も含めトレス被害などに敏感な絵師さんが多い中、面白かったという点で編集者を庇う人が多い事に衝撃を受けました。
日本の著作権法には財産権と人格権があり、著作権者の気持ちの部分は後者で保護されます。たとえ二次創作が面白かったとしても原作者の気持ちを傷つけた(望まぬ改変利用をされた)という事実がある場合には原作者は著作権侵害を主張することができます。
もちろん原作者保護が行き過ぎるとパロディが生まれなくなってしまうのでそれも問題ですが、少なくとも原作者の生存期間中に原作者が望まぬ形でのパロディは控えた方が原作者が筆をおることを防げるので良いと思います。
シリアスな作品を描いてはいてもパロディを歓迎してくれている作家さんたちもいらっしゃるのでそんな作品のパロディを創ればよいのかなと思います。
それで更に原作の人気が上がるのなら、「じゃあ私のもパロディOKにしようかな」と思う漫画家さんたちも増えてきて結果として文化の発展に寄与(法第1条)することになると思います。