知財の知識・改「弁理士編」で過去に配布していたレジュメです。
応用事例問題はいきなり答えを見ずに必ず一度自分の力で解いてください。そうしないと実力が付きません。

なお、知財の知識・改では1000円以下でこのようなオリジナル論文レジュメがたくさん入手できるようになりました。

 

【問題】
あいぴー社(以下、A社という)は発明家の本多甲太郎(以下、甲と呼ぶ)から発明イについて特許を受ける権利を譲り受け、発明イについて特許出願Pを行い、審査請求をした。一方、B社も甲から発明イについての特許を受ける権利を譲り受け、発明イについて特許出願Qを行い、審査請求をした。両出願は特許庁に係属しており、甲は出願を行っていない。
特許出願PとQが同日に出願された場合、両出願は特許庁においてそれぞれどのように取り扱われることになるか。

解答と解説はスクロールして下の方です。

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】

1.A社の特許出願P及びB社の特許出願Qは発明者甲から二重譲渡された発明イに係る特許を受ける権利に基づいて行われたものである。

2.両出願の発明者は甲であり同一人なので特許庁において両出願が二重譲渡にかかる出願と認定される可能性がある。また、両出願は同日にされていることから34条2項の規定に該当すると考えられる。

すると、両出願は既に出願審査請求がされているので、特許庁長官よりA社及びB社に対して協議命令がされる(34条7項で準用する39条7項)。
指定期間内に協議の結果の届け出があった場合には、協議により定めた者の出願は、他に拒絶理由がなければ特許を受けることができる。

協議により定めた者以外の者は、特許を受ける権利の承継について第三者に対抗することができないので(34条2項)、特許庁に対しても自己が正当な権利の承継者であると主張することはできない。ここで、届出を第三者対抗要件としたのは、出願前の特許を受ける権利の譲渡については適当な公示手段がないからである。

なお、「第三者」は特許庁を含む概念であると解される。したがって、協議により定めた者以外の者の出願は冒認を理由に拒絶され(49条7号)、過誤登録された場合には無効理由を有する(123条1項6号)。

指定期間内に協議の届出がなかった場合には協議が成立しなかったものとみなされ(34条7項で準用39条8項)、A社及びB社は共に協議により定めた者以外のものとなり、特許を受ける権利の承継について第三者に対抗することができない(34条2項)。

3.上記2とは異なり、特許庁において出願前の特許を受ける権利の承継が有効であるとの前提で審査が進む可能性も高い。かかる場合には、39条2項の規定が適用されることになる。

本問においては、A社の特許出願P及びB社の特許出願Qは同一の発明イについて同日にされた出願であることから39条2甲に該当する。そして、両出願は出願人が異なり、出願審査請求されていることから、特許庁長官により協議命令が出される(39条7項)。

 

【解説&福田ちはるからのメッセージ】

今回は34条についての論点が問題です。これについては特許法逐条解説よりも、「注解特許法」に記載の論述を真似て書くと良いでしょう。特に34条2項については興味深い主張をされていますよ。
少し引用しておきます。

「通常、対抗力とは、二重譲渡を受けた両当事者の問題であるが、本項(福田注:34条2項)でいう第三者とは特許庁を含む概念と考えられている。すなわち、協議により定めた者以外の者は、特許庁に対しても自己が正当な権利の承継者であると主張できないことになり、拒絶理由・無効理由を有する。」

「この結論自体は当然であるが、条文の書き方は妥当ではない。これは1項が二重譲渡の対抗要件を規定しており、2項はその特殊な例を規定しているので、1項につられて2項も対抗要件という語を用いたものと思われる。しかし、2項と類似している6項は、特許出願後の二重譲渡の同日届出を、対抗の問題としてではなく「協議により定めた者以外の者の届出は、その効力を生じない」と規定している。ほとんど同じことを規定している両項間にこのようなインバランスがあることは妥当でなく、2項も対抗力でなく効力の問題として規定すべきであろう。そもそも利害関係の対立している当事者の協議で定めた者以外は第三者(相手方利害関係人)に対して対抗できないのは当然であり、あえて対抗の問題として規定する必要はない。そうであるならば、2項は6項と同じ意味となり、特別に設ける必要はないことになろう。つまり、同日出願の場合は、対抗の問題ではなく、協議で定めた者の届出だけが効力をもつということを規定すれば充分であろう」

なお、本多 光太郎は、物理学者・金属工学者です。
「鉄の神様」「鉄鋼の父」などとも呼ばれ鉄鋼の世界的権威者として知られています。