昨日に引き続き知財の知識・改「弁理士編」で過去に配布していたレジュメです。
事例問題はいきなり答えを見ずに必ず一度自分の力で解いてください。そうしないと実力が付きません。

なお、知財の知識・改では他にも多くのレジュメが公開されています。
 

【問題】

甲は機能Xに特徴を有する装置の発明イについて特許出願Aを行い発明イに係る装置の製造販売を開始した。
特許出願Aの4月後に、甲は乙が機能Xに特徴を有する装置の製造販売を行っていることを知った。甲は乙に法的措置をとりたいと考えている。以下の問いに答えよ。

(1)甲は法的措置をとるに際してどのような事項を検討すべきか。ただし、乙は特許出願を行っていないものとする。
 
(2)甲は特許庁に対してどのような法的措置をとることができるか述べよ。

(3)甲は、乙に対してどのような法的措置をとることができるか述べよ。

 

解答はスクロールして下です。

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答例】
設問(1)について
1.乙は機能Xに特徴を有する装置の製造販売を行っているが、これは甲の特許出願Aに係る発明イの実施に該当する可能性がある。そして、該当する場合には、甲は特許出願Aの権利化を早める措置、乙に補償金請求権(65条)を行使するための措置等の法的措置をとることができる。以下、これらの措置を採る際に検討すべき事項を述べる。

2.乙の装置が発明イの範囲に属するか
甲は乙の製品が特許出願Aにかかる発明イの範囲に属するかを検討すべきである。
補償金請求権は、第三者が特許出願に係る発明を実施した場合にみとめられるからである(65条1項)。具体的には、乙の製品が特許出願Aの特許請求の範囲に記載された発明イの発明特定事項をすべて備えているかを検討する。

3.発明イの特許性
 甲は、特許出願Aにかかる発明イが特許される可能性を検討すべきである。
独占排他権である特許権(68条)は、発明イが特許されることにより発生し(66条)、補償金請求権を行使できるのは、発明Aが特許されることが条件となるからである(65条2項)。具体的には、甲は先行技術調査を行い、発明イが関連する先行技術に対して新規性(29条1項各号)や進歩性(29条2項)等の特許要件を備えているかを検討する。

4.乙の権原等
 甲は、乙の製品の製造販売が開始された時期が、特許出願Aより前であるか否か等を調査し、乙に先使用権(79条)があるか、発明イが公然実施(29条1項2号)に該当するかを検討する。先使用権(79条)は補償金請求権に対抗でき、公然実施により発明イは特許されないからである。

設問(2)について

1.乙製品が発明イの範囲に属すると判断した場合
 甲は、前期(1)2 の検討の結果、乙製品が発明イの範囲に属すると判断した場合は以下の法的措置をとることができる。
(1)出願公開の請求(64条の2)
補償金請求権を発生させるためには、まず、特許出願Aが出願公開されることが必要であるが(65条1項)、出願公開は原則として出願日から1年6月経過後に行われ(64条1項)、甲が乙の実施を知ったのは特許出願Aがなされた4月後であり、この時点ではいまだ特許出願Aの出願公開はなされていない。
この場合、甲は特許出願Aについて所定事項を記載した請求書を特許庁長官に提出するこ
とにより出願公開の請求を行うことができ(64条の2第1項)、これにより出願公開を早め(64条1項)、早期に補償金請求権を発生させることができる。
(2)出願審査の請求(48条の3)
 甲は、特許出願Aの権利化を早めるため、特許出願Aについて出願審査の請求をすることができる(48条の3第1項)。また、優先審査に関する事情説明書を提出することもできる(特許法施行規則31条の2)。さらに、運用で早期審査を求めることもできる。
(3)なお、甲は、発明イの特許性の検討の結果、発明イが特許される可能性が低いと判断した場合は、上記措置を採るべきではない。甲は乙に対して権利行使できない可能性が高いからである。
2.乙の製品が発明イの範囲に属さないと判断した場合
甲は、検討の結果、乙の製品が発明イの範囲に属さないと判断した場合は、特許出願Aの特許請求の範囲の補正を検討すべきである。新規事項の追加(17条の2第3項)となることなく、かつ、特許を受ける可能性を有するように明細書等を補正し、補正後の特許請求の範囲に記載された発明の範囲に乙の製品が属することができる場合はそのような補正を行うべきである。
 この補正の後、または補正と同時に上述の出願公開の請求(64条の2)及び出願審査の請求(48条の3第1項)を行うことができる。 
 なお、補正ができない場合は、甲は上記措置を採るべきではない。

設問(3)について
1.乙の製品が発明イの範囲に属すると判断した場合
 甲は、特許出願Aについて出願公開がされた後に特許出願Aに係る発明イの内容を記載した書面を提示して乙に警告を行うことができる(65条1項)。
補償金請求権の行使は原則として警告が条件となっているからである(65条1項)。
警告書には、特許出願Aにかかる出願公開の番号、年月日、特許出願の番号、特許請求の範囲、明細書、必要な図面を記載することが必要である。
 なお、出願公開された特許出願Aに係る発明イであることを知って乙が実施している場合は、この警告は不要である(65条1項)。
 また、甲は発明イが特許される可能性が低いと判断した場合は、上記警告は行うべきでない。
2.乙の製品は発明イの範囲に属さないと判断した場合
 甲は上記警告は行うべきでない。最終的に乙に対して権利行使できない可能性が高いからである。                                以上

【解説&福田ちはるからのメッセージ】
補償金請求権についての問題です。出願人の取り得る措置ですね。これの反対として、警告を受けた者の取り得る措置についてもレジュメを用意しておきましょう。
事例問題ではうまく当てはめられるようになりましょうね。