商標ゴロ対策!新・商標登録取消制度設立の提言

数年前から何度も同じような商標権侵害のニュースを見ています。

そして、過去にも一度記事にしたことがあります(旧ブログの記事なので、残っていませんが・・・)

 

「ボクササイズ」の商標権侵害の事件です。

 

たとえば、今月(6月)、宮城県大崎市主催の健康教室では、東京都内のボクシングジムから「無断で「ボクササイズ」の名称を使われ商標権を侵害された」と損害賠償を請求する警告がされ、和解金を支払いました。

市は「一般的な運動と思い、許諾が必要との認識がなかった。」と話しています。

 

 

確かに「ボクササイズ」という商標は登録されています。

 

しかし、大崎市の人が話しているように、一般の人は、「ボクササイズは一般的な運動」と思っているはずです。

 

私もボクササイズは普通の用語だと思っていました。

 

東京都内のジムは、なんと過去に750件もの商標権侵害の警告をし和解金を得ています。

 

 

・・・これって、酷すぎます。

 

確かに一応は正当な商標権の行使なのですが、ビジネスになってしまっていますよね。
商標トロール(商標ゴロ)のやり方に似ています。

 

なぜビジネスになっているかというと、この商標が単なる普通名称(誰もが商標として使うことが出来る普通の名称というそのまんまの意味)だからです。

 

そして、誰もが普通名称として使えると信じているのに実は商標権が存在し、気軽に使うと手痛いパンチが浴びせられます。

 

これにより、「ボクササイズ」の商標権者は少なく見積もっても2200万円もの商標使用料をせしめています。(もちろん、弁護士費用などを考えると多いとは言えないでしょうし、商標法上正当な権利行使です)

 

これは、商標法の目的に反する行為です。

 

商標法では、識別力のある商標を保護することにより、事業者の信用を保護し、それにより、産業の発達とさらには消費者の利益を保護することを目的としています。

 

しかし、識別力のない商標を保護してしまうと、不当に事業者に利益を与え、健全な競業秩序を乱し、消費者に不利益を与えます。

 

したがって、今後警告を受けた人は、都内のジムに対して商標権の効力が及ばない範囲での使用であると主張すれば、商標使用料を支払う必要はないでしょう。

 

商標権の効力が及ばない範囲
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標

 
不存在確認訴訟の裁判で「ボクササイズ」は普通名称だと認められれば、以後安心して「ボクササイズ」を利用出来るようになります。

 

・・・とはいっても、知財部のない小さな企業では、裁判と言われてもどうすれば良いのかわからないでしょう。

 

そこで、そうした多くの企業を救うためにも、商標登録後に普通名称化した商標の取消審判制度を導入してほしいと思います。

 

この取消審判制度は、アメリカやドイツ等諸外国ではあります。

しかし、日本(あと、中国にも)には存在しません。

 

特許庁では新しいタイプの商標制度の導入に伴い、登録後普通名称化した商標の取り消し制度導入を考えたことがありましたが、アンケート調査によると「個別対応すればよい」との意見が多かったことから見送られました。

 

しかし、私は導入すべきと考えます。

 

というのも、アンケート調査で「個別対応すればよい」と回答した企業には知財部があるからです。

知財の知識がある企業なら普通名称化した商標なんて怖くもなんともありません。

 

しかし、知財部のない零細企業では、知的財産権の侵害として警告を受けると、怖くなってすぐにお金を払ってしまいます。特に、数百件もの支払いの前例がある場合には尚更です。

 

したがって、知財に詳しくない小さな企業を救うためにも、取消制度は設けるべきだと考えます。

 

利害関係人のみが審判請求できるのか誰でも請求できるのかについては慎重に議論すべきでしょうが、商標トロールのような行為を放置してしまっては、産業の発達に寄与しないことは明白です。

 

商標権というものは財産権ではありますが、ベストライセンス社のように、他社の商標登録出願に先駆けて他人が勝手に商標登録を受けて権利行使するような行為や明らかに普通名称化している商標権に基いて権利行使をすることは望ましい商標権の権利行使の方法ではありません。

 

そして、普通名称化してしまった商標権を取り消してしまったとしても、適切な普通名称化防止措置を採らなかった商標権者に責任があることから問題はありません。

 

ここで、普通名称化防止措置とは、単に他者に権利行使をするという意味ではありません。

 

その商標が有名になればなるほど普通名称化しやすくなってしまうので、商標の適切な管理をしなくてはならず、その管理は困難です。

 

「ボクササイズ」商標はこの管理を怠っていたので、商標権を取り消されても仕方がないと思います。

 

 

なお、任天堂は「ポケモン ボクササイズ」という商標権を持っています。

 

しかし、「ボクササイズ」商標の持ち主は任天堂に警告していません。

 

任天堂のような巨大企業に警告すればとんでもない額の商標使用料が入ってくるはずです。
なのに任天堂へ警告をしていない。
他の「○○ + ボクササイズ」には警告をしているのに。
 

これは、任天堂に警告したが最後、返り討ちに遭うと考えているからではないでしょうか。

こんな普通名称化してしまった商標で警告したら、ピカチュウのカウンターパンチにより一発KOされてしまうかもしれないと思ったのではないでしょうか。

 

 

というわけで、知的財産権に関しては法改正ばかりで学習する人にとっては大変ですが、ぜひこの点に関しては新制度を導入してほしいと思います。

 

本当は小さな企業でも知財について学んでくれれば新制度を導入する必要なんて無いのですけどね。

 

知財を学んでおくと、攻撃に使えるだけでなく、自らのビジネスを守ることもできます。ぜひ、知財の知識を身につけてください。

私の知財サイトでも学べますよ。

 

商標権侵害事件に巻き込まれてから弁護士や弁理士のような専門家に泣きつくと、30分5000円から相談料がとられ、相談だけで2万円程度はかかってしまうことがザラです。

 

そんなことになる前にぜひ、予め最低限の知財の知識を身につけておいてください。