高知県須崎市の楠瀬耕作市長が、ゆるキャラ「ちぃたん☆」を運営しているクリーブラッツ社に活動停止を申し入れました。
理由は、須崎市のキャラクター「しんじょう君」の著作権を侵害している及び不正競争防止法に違反しているから、とのことです。
ちぃたん☆は現在も活動を続けているため、須崎市は提訴する可能性もあります。
さて、こんなに愛らしいキャラクターをめぐり、なぜこのような自体に陥ってしまったのでしょうか。
両者の主張については、公表されたものからしか推認できないので、須崎市の主張を見ながら、主張の正当性を考えていきたいと思います。
しんじょう君とちぃたん☆の誕生
須崎市によると、2012年に市のマスコットキャラクターを公募し、翌年2月3日に406の公募の中から2000人の市民の投票によりしんじょう君が誕生しました。
そして、2016年に須崎市がしんじょう君の商標登録出願を行い、翌年には商標が登録されました。
この年(2017年)にクリーブラッツ社がしんじょう君のデザイナーと同じ人物にデザインを依頼し、須崎市のかわうそのちいたんをモチーフにしたゆるキャラのちぃたん☆が誕生しました。
そして、クリーブラッツ社が商標出願しましたが、しんじょう君との酷似を理由にちぃたん☆の商標登録出願は拒絶されています。
今年に入って、SNSやテレビなどでちぃたん☆の過激な動画を見て、しんじょう君が過激な行動をしているのだと誤認した視聴者から須崎市に苦情が殺到しました。
また、クリーブラッツ社は、須崎市に無断で国内だけでなく海外にも商標登録出願しており、信頼関係が損なわれたと感じた須崎市は、とうとうちぃたん☆側へ活動停止を求めたというわけです。
といっても、あくまでもクリーブラッツ社へ対して活動停止を求めただけで、楠瀬市長は「キャラやファンには何の罪もない」と強調しています。
そうです。ちぃたん☆としんじょう君は殴り合いの喧嘩なんてしていません。
須崎市が主張する法的根拠
須崎市は以下のような声明を発表しています。
まず始めに、須崎市はしんじょう君の著作権者であり、しんじょう君の翻案権(著作権法 27 条)及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法28条)を有しているとしています。
これは、しんじょう君のイラストを描いた人から、その著作財産権を譲り受けただけでなく、契約書において、著作権法第二十七条及び第二十八条に規定する権利を譲渡の目的として特掲したものだと考えられます。
もし特掲していなかった場合、須崎市の主張は著作財産権の侵害だけで留まるからです。
そして、須崎市は、クリーブラッツ社は須崎市が有するしんじょう君に係る著作権(イラストや着ぐるみ等の翻案権〔著作権法27条〕、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利〔同法28条〕としての複製権〔同21条〕、公衆送信権〔同23条〕、譲渡権〔同26条の2〕等)を侵害しており、不正競争防止法2条1項2号及び同法2条1項1号に定める不正競争(著名表示冒用行為及び周知表示混同惹起行為)に該当するとしています。
そして、著作権法112条1項及び不正競争防止法3条1項、2項に基づき活動停止を求めたというわけです。
これって、形式的にはその通りなのですが、なかなか難しい問題だなと思いました。
それは、デザイナー(イラストレイター)が同じで、同じかわうそというモチーフを題材にすることにより、どうしても同じようなキャラクターになってしまうからです。
そのため、本来は、須崎市は、契約書において「しんじょう君に似ているキャラクターを創作しない」点について同意をもらっておくべきでした。
しかし、なかなかここまで頭が回らないですよね・・・。
このブログのヘッダー(トップ画面を見たときだけ現れます)を描いてくれている画家さんが今度海外でイラストを展示するのですが、その契約書を見たら、海外では「展示されている期間中の保管」については責任を持つと書かれていたのですが、「絵が届いてから展示が開始するまで」の期間については書かれていなかったので、この間に何か起こったらどうしようと思い、「絵が届いてから展示が終了し、送り返すまで」に変更できないかななどと考えていました。
契約書では将来のあらゆることを見越して出来うる限りのことを盛り込むようにはしているとは思いますが、ついつい見落としてしまうこともあるでしょう。
この点、テンプレ+AIって強いと思います。
さて、話が脱線してしまいましたが続きです。
須崎市は、クリーブラッツ社が無断で国内外で商標登録出願を行っているために信義に反すると考えているわけですが、これについてはティラミスヒーローのときと逆ですね。
海外有名商標を日本で商標出願するのではなくて、日本の商標を海外で商標出願するというものです。
他者の著作権を侵害して生み出された二次的著作物を勝手に商標登録出願したわけですが、それ自体は著作権の侵害ではありません。
この点、著作権と商標権をごっちゃにしているとティラミスヒーローのときと同じ事案だと思ってしまいます。
しんじょう君は先に商標登録を済ませているから後願のちぃたん☆を排除できたのです。
なお、海外での出願は許諾さえ貰えればクリーブラッツ社がしてもよかったのかも・・・と思いました。
なぜなら、ちぃたん☆の方がしんじょう君より知名度があるからです。
ただ、無断でするのは望ましい行為ではありません。
本来ならば須崎市に申し入れて同意を得てから海外商標出願をすべきでした。
須崎市とクリーブラッツ社の争い☆まとめ
結論としては、「そもそも契約書でもうちょっとどうにかなったはずだった」ということと「イラストレイターもトラブルを防ぐためには須崎市に確認をとるなりなんなりの手段を採るべきだった」ということに加え、
「ちいたん☆は危険物を振り回すのは危ないし笑えないからやめて〜」
「クリーブラッツ社は須崎市と仲良くすればwin-winになれたはずなのに勿体無い」
ということを述べておきたいと思います。
別の報道では、クリーブラッツ側のコメントとして、
「そもそもデザイナー様を須崎市様からご紹介いただいて、須崎市様の事前のご確認を得たうえでデザイナー様に『ちぃたん☆』のデザインをご制作いただき、その上で、須崎市様から、上記のように須崎市様のご許可は不要であるとの回答を頂戴し」
とあるんですが、その場合でも法的には市側有利なんですかね?
もしクリーブラッツ社側の主張が本当なら、クリーブラッツ社のしていることに何らの違法性はないですね。
須崎市は訴訟を提起しても勝てないかもしれません。
契約書を交わすなど何か証拠が残っていれば良いのですが。
知名度があればちぃたんが出願しても良かったのでしょうか。
まあ、しんじょう君は海外でのアニメ放送を発表しており、ちぃたんの海外の商標出願はその妨害になるというのが今回の状況の理由のひとつですので、許諾はありませんが。
知名度云々のところは、ビジネス戦略として考えた場合に、アリということです。
しんじょう君は海外でのアニメ放送を発表しているのですね。情報ありがとうございます。
それならちぃたんの海外商標出願は妨害と見て良いでしょう。
ということは、クリーブラッツ社側が嘘をついたということになりそうですね。
著作権絡みで当初の契約に盛り込まれなかった事項が原因で自治体とデザイナーで意見が対立し、別のデザイナーとイチからキャラクターを作り直す羽目になったケースなら知っています。
この手の契約には可能な限り想定される利用態様や起きうるトラブルを想定する情報収集力が求められますね。他の自治体からすれば良いリーディングケースになったかと。
こんな騒動のおかげで、テンプレートを作ることも出来ますね。
個別のケースごとに契約書を作っていくと、人間が関わる限りどうしても抜けがある危険性がありますから(このデメリットを補強するためAIの利用も進められていますが)、テンプレがあると助かりますね。