東京地裁が、有斐閣の「著作権判例百選」の改訂版を「著作権侵害」を理由として出版差し止めを命じる仮処分の決定を出しました。
・・・って誰もが読み返してしまうような文章です(笑)
*この記事も旧ブログ「問題解決中」のものです。実際に欠かれたのは2年ほど前です。
「んん?著作権の本が著作権侵害とな!?」
どうやら、以前「判例百選」の編集に加わっていた東京大学の大渕哲也教授が自分の名前が改定にあたって「編者」から除外されたことを不服として出版の差し止めを求める仮処分を申し立てたようです。
対する有斐閣側は「出版差し止めは表現の自由の侵害だ」と反論。
しかし、東京地裁は大渕教授の申し立てを認め、有斐閣の著作権判例百選の改訂版の差し止めを命じる決定を出しました。
有斐閣の予定通りなら、あと数日で出版されるところでした。
さて、今回の東京地裁の決定は妥当でしょうか。
著作権法に基づいてみてみましょう。
一口に著作権侵害といっても、著作権には実に様々な種類の権利があります。
今回は、著作者人格権である氏名表示権(著作権法19条)の侵害だと思われます。
これは、著作者の氏名を表示するという名誉を守る権利です。
日本は著作者人格権が強い国ですし、このような決定がされたことは妥当だと思います。
氏名表示権の他にも侵害しているとしたら編集著作物の著作権かな?
詳しい内容がわからないので今はなんとも言えませんが一応説明しておきます。
編集物(データベースは除く)で、その素材の選択や配列に創作性があるものを編集著作物といいます。
編集著作権は、編集された個々の素材には及びませんが、編集著作物の素材の選択または配列により創作性を有する部分を利用する行為について、無断で利用しないように求める権利です。
大渕教授が編集を行っていたとしたら、この編集著作権が認められます。
ところで、有斐閣の判例百選といえば、以前も記事にしたことがありました。
「法学天」という有斐閣とは何の関係もない人が勝手に創ったサイトに「判例百選」の内容がそのままコピペされていたという内容です。
この事件では有斐閣は完全なる被害者です。
今回は加害者側ですが、大渕教授と何かもめたのでしょうかね。
この事件のように、法律に携わる人たちが絡む著作権侵害事件って結構あります。
大阪の某弁護士事務所もウエブサイトにアマナイメージズの写真を無断使用して著作権を侵害してしまいましたし。
法曹資格保持者や法曹を目指す者は、著作権の侵害に関しては、一般の人以上に敏感になっていなくては、築いた名声を一気に失ってしまう恐れがあります。
勿体無いですよ・・・。
資格を取ってからでも良いので勉強をしておくとよいと思います。
弁理士もね。
私は試験に受かってから中山先生の著作権法[PR]
を読みました。
すごく良い本なのでお勧めです。
ちなみに有斐閣出版w
平成31年3月追記;知財高裁は、「大渕教授は、そもそも旧版の原案作成に具体的に関与しておらず、実質的にはアドバイザーの地位にとどまるため著作権法で保護される著作者とはいえない」として、差し止めを認めた東京地裁決定を取り消しました。
つまり、大渕教授は旧版の編者の1人ではなく、大渕氏の合意を得ずに改訂版を出版する行為は、著作権侵害ではないと判断されました。
別の言葉で言うと、大渕教授は、編集方針(=アイデア)を示しただけで編集はしていないということです。
具体的な編集物に表現されている編集方針を創作した者でないと編集著作権者だとは認められないのです。
この事件は、最新版の著作権判例百選に掲載されました!!
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もし知財高裁でひっくり返らなかったら、掲載されなかったのかしら??
そういえば、昔、某受験予備校が知的財産権の侵害をしたことがありましたが、あの事件、受験予備校のテキストを見ても載っていないのですが・・・