改正意匠法による「デザイン群」と「店舗外内装」の保護という記事を半年ほど前に書きました。
その記事の中で、企業の同一シリーズの製品デザインを「デザイン群」として保護したり店舗の内外装のデザインも保護されるということについて触れました。
なお、改正意匠法では仮想現実(VR)技術で使われる投影画像のデザインなどにも対象が広げられることになります。
特許庁はデザイン経営を推進したい考えですので、意匠権による保護をより厚くするのは理にかなっているといえます。
特許権を取ったからといって即売上が上がるわけではありませんし、APPLEのように、デザインパテントを重視している会社の成功を見ていると、外観というものの重要性は他国には遅れを取っていますがこれからはより一層重視されるべきだと思います。
ただ、少し課題があるなと思える点もいくつかあります。
それは、登録を経た知的財産権に頼らずに登録していない知的財産権だけで勝負せざるを得ない人たち(=小さな企業)の保護に劣るという点です。
特許権とは違い、商標権や意匠権というものは取得費用も安く、効果的なので、どんどん取ってほしいとは思います。
しかし、小さな企業にとっては、その安価な費用でさえも重い負担となってのしかかってきます。
大企業の人には考えも及ばないことでしょうが、小さな企業では、素晴らしいアイデアやデザインがあってもすぐには権利化しません。
いえ、権利化できません。資金が無いからです。
10代後半や20代前半で信用も実績もない人たちは、資金繰りに非常に苦労しています。
小さな企業の人たちは、厳選して本当に活用できるものだけを知的財産権として保護しようとします。
中小企業の方たちと話していると、みなさん何を権利化するか、特許権をとっても活用できるのかということについて非常に悩んでいらっしゃるのが伝わってきます。
そして、知的財産権を取得せずにどうにか真似を防げないか、別の手段で参入障壁を築けないかと質問されます。
そんなとき、私は各企業に合わせた参入障壁の築き方について提案させていただいています。
スピードが重視される現代では、ノロノロと知的財産権を取っている場合では無いということもあります。
資金さえ許せば知的財産権を取っておいた方が、後に争いになった場合に損害の立証が楽な場合が多いといえます。
特許権は難しくても、商標権や意匠権は低廉で効果的な良い知的財産権だと思います。
しかし、数万円出せば数十万〜数千万円のバリアとなるだろうなと思っても、それですら小さな企業にはなかなか気楽には出せない金額なのです。
したがって、小さな企業のためには、相変わらず著作権や不競法による保護が必要だと思います。
もちろん、出願にかかるコストはかからないが、裁判になった場合に得られる額が低廉過ぎるという問題もあります。
そのため、「どうせ得られる金額は少ないし、弁護士費用と失う時間を考えたら訴えないほうがいい・・・」という結論に達してしまう場合もあります。
あとは、同業他社を訴えて悪い噂を流されるのも怖いので極力争わないようにして泣き寝入りするという手段を採ることも多いです。
他社の悪い噂を流すことは不正競争に当たるので許されないのですが、そういうことをする企業はたくさんありますし、されても我慢していることはよくあります。
ちなみに、ビジネス上では一見敵と思えるような人でも話し合ってみると意外と打ち解けることが多いものです。
お店の悪い噂を流されたために事実確認のため話し合ってみると謝罪され、以後は手を取り共に共栄するということもあるものです。
宗教的・政治的思想が異なる場合にはその対立の溝を埋めることは難しいのですが、「顧客や公益のために」という理念を抱えてビジネスをしている人には、その点から訴求すると、仲良くなってしまうことが多いと思います。
もちろん、プライドが高くてそんなことできない!という人もいらっしゃるでしょうが、企業同士の争いは顧客には見えませんし、プライドなんて捨てて仲良くしてしまった方がプラスになることが多いと感じています。
罪を憎んで人を憎まず、の精神でいるとビジネスチャンスも広がると思います。純粋に真面目にビジネスをしている者同士は同志として分かり合えることが多いです。
そんなわけで、私は「これは不正競争行為に該当するから警告する!」というような強行手段をとらず、「相手にも言い分があるのだろう。どうしたら相手が協力してくれるようになるかな」と考えて適切な手段を採るということが法律以上に大事なことなのではないかと感じています。
(ちなみのこのやり方は一口では説明しにくいです。相手の性格や置かれた状況によって変化しますし。
なお、法律を知った上でやった方が効果的です。法的手段に訴えることが出来るのにあえてそれをしない、という点がポイントです)
目障りな敵だと思っていた人が強力な味方になるということはよくあります。
(たとえば、斬新なサービスを打ち出したライバル店が近くに現れたら、老舗企業としては不安になって悪口の一つも言いたくなるものです。そんなときに、「悪口を言いふらしやがって!」と拳を振り上げて殴り掛かるよりも、「新参者ですがよろしくお願いします」と頭を下げに来て老舗に敬意を払う人に老舗も悪い気持ちは持ちにくいものです。
また、逆に老舗の方から友好的な態度をとってくれると、新規参入者は敬意を払ってくれるものです。)
お互いが仲良くして相手の商品やサービスを宣伝することにより業界が活性化した事例もあります。
逆に喧嘩していがみあって商品やサービス自体が消えてしまう、または第三者が漁夫の利を得るということもあります。これは本当に勿体無いです。
繰り返しますが、ライバルのことは影で悪い噂を流さないほうがいいです。一度影で噂を流すと、巡り巡ってそれがライバルの耳に入り、仲良くできたはずなのに敵と手を組まれるという最悪の事態に陥ることがあります。
因果応報です。悪いことをすると絶対に自分に返ってきます。しかも数倍返しです。
今まで築き上げたものが消えます。
したがって、悪口は絶対にやめるべきですし、悪口を言ってしまったのなら関係を修復すべく最善の努力をすべきです。
それを面倒がるようでは持続的な経営は望めません。
さて、私は上述のように「法律の枠組みの外での問題解決」に力を入れているのですが、やはり、法に守って欲しいと思うこともあります。
しかし、知的財産権を取得するには少なくない費用がかかるのに、その効力は未知数です。
この問題を解決するには、損害賠償請求をした場合に得られる金額を増やすとか、弁護士費用を下げることの方が効果的でしょう。
すると、訴訟が頻発するという別の問題も起こるかもしれませんが・・・。
特に店舗の外観などについては、昔ながらのデザインと斬新なデザインとのミックスなど微妙なデザインも多く、無効審判が多発してしまうのではないかとも思います。
理想としては、知的財産権の取得が今までよりももっと簡単に安くなることなのでしょう。
特許権というものは、一般の人にとってはあまりにも取得のハードルが高すぎます。
そして、取得することはできたとしてもそれを財産として活用することは更に難易度が上がります。
しかし、近い未来特許制度自体が大幅改正されるかもしれません。
すると、休眠特許の存在が減り、世界中の知的財産が瞬時に有効活用されるようになるのかもしれません(予想の域を出ませんが)。
特許権だけでなく、他の知的財産権についても取得のハードルが低くなれば健全な協業秩序の維持に役立つでしょう。
中小零細企業の経営者が警告書を受け取ると、みな困った顔をしつつもどこか誇らしげですね。裸一貫で築き上げた会社が知財訴訟をするレベルに至ったのであれば寧ろお祝いすべきことですよ。
そういうレベルに至ることなく潰れていく企業が多いということです。
起業して1年以内に潰れる割合が30~40%、10年以内は90%らしいですからね・・・(^^; 約7割が3年以内に倒産している事実を考えると、知財訴訟をするレベルに至ったことを誇る気持ちも分かる気がします。