エコリカ→キャノン損害賠償請求の妥当性

株式会社エコリカが、キヤノン株式会社に対し、インクジェットプリンタ(長音で伸ばすのは好きじゃないのでこの記事内では「プリンタ」で統一します)用インクカートリッジに関する独占禁止法違反行為差止等請求訴訟と3000万円の損害賠償請求訴訟を大阪地方裁判所に提起したとのニュースが話題になっています。

キヤノンが2017年9月より発売しているBCI-380シリーズ及びBCI-381シリーズの各種インクカートリッジはICチップのデータの初期化が不可能な仕様になっています。従来のリサイクル品をプリンタにセットしても正常に認識されず使えないため、リサイクル品業者であるエコリカはリサイクルカートリッジを販売することが出来なくなってしまいます。そこで訴訟提起に踏み切ったそうです。

純正品メーカー側、消費者側、政府側等、立場によって考えは異なるでしょうが、このブログは知財ブログですし知財寄りから意見を書いてみたいと思います。
知財業界の人が皆こんな考え方をするというわけではなく、飽くまでも一個人の意見に過ぎませんのでご了承ください。

さて事案の概要は上述した通りですが補足しておくと、消耗品モデル(ジレットモデル)と言われる本体を安くして消耗品で儲けるビジネスモデルを採択したプリンタメーカーの儲かる部分(消耗品)に目をつけた無関係の第三者(エコリカ)が「消費者の選択の余地を広げるため」「エコだから」という理由で純正品より2割ほど安くしたリサイクルカートリッジを販売しています。

これでは利益が大幅に減ってしまうので、純正品メーカーは様々な手段を使ってリサイクル業者を排除しようとしており、その一つの手段が今回キャノンがしたような「ICチップのデータの初期化を不可能にする」という技術です。

これはエプソンとエコリカとの争い(エプソン敗訴)の中で焦点とならなかった問題でした。また、過去(平成18年)にキャノンが最高裁まで争ったインクカートリッジ事件(キャノン勝訴)のときとも違います。
インクカートリッジ事件ではキャノンはリサイクルアシストに勝訴しているのですが、最高裁では「特許製品につき加工や部品の交換がされ、当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは特許権者は特許権を行使することが許される」と判示したのみであり、リサイクルカートリッジの特許侵害の成否について、知財高裁大合議判決の理由を追認しませんでした。
そのため10年以上疑問は残ったままだったのです。

(なお、オンライン通販のレビュー欄を色々と見てみたのですが、純正品インクカートリッジへの不満は値段が高すぎるというものばかりです。確かに高い!!)
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キャノンはなぜインクカートリッジのICチップデータの初期化を不可能にしたのか

まずはキャノンの思惑について考えてみたいと思います。

キャノンはエコリカからの反撃があることは想定済みでこのようなICチップを採用しているのだと思います。
上述したようにリサイクルアシストとの紛争や、エコリカvsエプソンの過去がありますからね。リサイクル品業者から独占禁止法違反等と主張されるであろうことは当然に予想していたでしょう。

ですから、キャノン側ではこの行為を「独占禁止法違反ではない」という自信がある(確信まではいかないでしょうが)のだと思われます。

インクカートリッジ事件の技術に関して説明すると、純正品メーカーはインクカートリッジのインク注入部に封をして運んでいる最中にインクが漏れないような技術を発明しています。キャノンの純正品はインク自体が圧接部の界面で空気の移動を妨げる障壁となる技術的役割を有しているんです。
使用によりインクが減ると圧接部の界面の一部〜全部がインクを保持しなくなりプリンタ本体から取り外されしばらく放置されると乾いてしまいインクがくっついてしまいます。
リサイクル業者はこのインクカートリッジに横から穴を開けて洗浄しインクを再充填させているんですね。
だからリサイクルインクは印字出来ないこともあり純正品より品質が劣るわけです。

最高裁ではリサイクル業者のこの加工の態様を、「単に消耗品であるインクを補充しているというにとどまらず、インクタンク本体をインクの補充が可能となるように変形させるものに他ならない」とし侵害としました。

最高裁は、特許製品が製品としての効用を終えたか否かについての判断はしていないのです。消耗品の補充という行為ではなく「孔を開ける」ことにより特許製品の同一性を損なわせたか否かを判断し、それにより特許権が消尽しないか否かを判断しました。

また、知財高裁では物を生産する方法の発明にかかる特許権に基づく権利行使の可否について判断を示していますが最高裁ではBBS事件最高裁判決を引用しただけで知財高裁の判断について触れていません。

ということは、最初に述べたように疑問が残ります。

特別なカートリッジを発明して、そのカートリッジにインクを無駄なく充填するなよう方法の特許があったらリサイクル業者は消耗品の充填はできないのでは?

とか

方法の発明にプラスしてカートリッジ自体で特許をとったら?(ICチップのデータの初期化を不可能にして実質的にインクの再充填不可能にしちゃう特許とか?)

とか

間接侵害(特許法101条)で攻める(間接侵害の規定が新しくなってからはまだ消耗品ビジネス関連での判決は出ていないはず。多分・・・)

とか。

このように考えることができると思います。これは特許戦略なので、これが「独占禁止法違反」と言われてしまうと知財業界の人たちは困ってしまいます。

エコリカの主張も分からないでもないですが、そもそも独占禁止法21条で例外的取り扱いとして知的財産権による権利の行使を掲げています。知的財産権による権利の行使が適用除外とされる理由は、特許法の法目的に合致するからです。すなわち、「産業の発達に寄与する」からに他なりません(特許法第一条)。

適用除外
独占禁止法第二十一条 この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。

 

特許法の目的

競合他社(キャノンの競合はエプソンなどプリンタメーカー)と切磋琢磨することにより、より性能が高く安価な製品が消費者に届けられることになるのですから、特許権による一定期間の技術の独占は「善」と考えるのが特許法です。

ただしさらに例外があって、ライセンスを認めないとか、ライセンス料を高額にして実質的にライセンス不可にする行為は独占禁止法違反となります。

これを今回の例に当てはめると、キャノン側はリサイクルインクの販売自体をライセンスしないという意思表示はしていません。技術的にリサイクルインクを使用できないようにしているだけです。

リサイクルインク業者は技術的にいわゆる「再生産」にならないように注意しつつこの問題を解決すれば良いだけです。または正式に使用許諾を受ければ良いだけです。
その努力もせずに「独禁法違反!」という主張は分が悪いでしょう。

リサイクルを認めないのは「エコに反する」とか「消費者の選択の幅を狭める」という主張もわかります。
でも、純正品メーカーもリサイクルしていますし互換品業者がいなければもっとスムーズにリサイクルが進む可能性があります。

純正品メーカー同士がインクの質等で争っているのなら望ましい争いですが、産業の発達という点から見ると、リサイクル業者を保護したって得をするのはリサイクル業者であって、消費者にはそれほど恩恵がありません。だって、純正品よりたった2〜3割程度しか安くないですから。五割安くなっているなら消費者にも恩恵がありますが。

しかも品質が悪くて下手すると本体が壊れる危険性もあります。(本体が壊れると本体が売れるので純正品メーカーはちょっと嬉しいですがエコには反しますね)

むしろリサイクル業者を排除して純正品メーカー同士で、よりエコで品質の高いインクの開発競争をしてくれた方が産業の発達に資するでしょうしエコでしょう。

プリンタはここ数年性能は目立って上がっていませんが、成熟産業だという理由の他に、リサイクルインク業者のせいで対応に追われプリンタの技術開発に資金をかけられなかったということもあるのではないでしょうか。

本来ならば技術開発→売上アップ→開発資金の回収。さらに技術開発に資金を投入。となるべきところを横から現れた第三者に美味しいところだけを持っていかれてしまっては発明をしようという意欲が削がれてしまうでしょう。(もちろん、優れた技術=売上アップというわけではありません。たとえば、ある技術を用いたビジネスを初めた人がいて、その人が成功しているので二番手が追随し、追い越したとしてもそれは二番手の営業努力等が功を奏したわけですから一番手が「私が元祖!」と主張しても別に一番手を守ってあげる必要はありません)

プリンタメーカーがプライドを失ったら自社でプリンタを開発せずに、他社のプリンタ用の互換品を作るだけの仕事をするかもしれません。すると、プリンタを作る会社が一番儲からなくなってしまうので、結局プリンタメーカーがいなくなってしまいます。

この流れは、特許法が最も恐れていることです。
素晴らしい発明をした人が報われる世の中でなくてはいけないのです。少なくとも、日本の産業競争力を高めるためには必要なことです。
(発明だけでなく、優れた意匠や優れたブランドを創り出した人が報われるようにしたいというのは知的財産権に関する法律が意図するところです)

知財の観点からは、技術開発をしておらず、優れたデザインも創り出していないリサイクルをしているだけの業者の過度な保護は悪だと思います。
仮にエコリカが純正品の5割以下の値段でリサイクルインクを販売していたら「消費者の選択の余地」を大幅に認めるわけになりますがそんな安い値段で売っているわけでもないので、やはり一社の利益の追求と正規品メーカーの減益、消費者のリスクを総合考慮するとリサイクル業者を守っても結果として日本経済全体へのデメリットのほうが大きいと思います。

特に、リサイクル業者が品質の悪いインクを販売してしまった場合に、返品措置をとらない消費者も大勢いるであろうことから、低品質のリスクを購入した消費者に押し付けて。
これはエコに反するだけでなく消費者保護にも反します。

本来ならば、「純正メーカーから許諾を受けた業者が作ったセットしても故障しないリサイクルインク」を販売すべきだと思います。
エコリカだってライセンス料くらい払えば良いでしょう。利益率が下がっても良いではないですか。環境と消費者のためになるのですから。(そして、ライセンスをしてくれなかったりライセンス料が高額過ぎる場合に初めて独占禁止法違反だと主張すればよいでしょう)
「正式にライセンスを受けて故障しないようにする」のは、エコを追求したいリサイクル業者にとってはごく自然なことだと思います。
それをしないで、メーカーが技術で問題解決をしようとしたら「損害を賠償しろ!差し止めだ!」というのでは「自社の利益を守りたいだけでは」と思ってしまいます。

それから、消尽論というものは「取引の安全」を確保するための理論なのですから、非純正品のインクカートリッジが侵害になるかどうかわからない不安定な状況では消費者に不利益を与えます。
実際不利益を被っている人もたくさんいます。

こんなことを書くと、なんだお前は純正品メーカーの手先か!と思われそうですが、私は別に純正品メーカーに思い入れはありません。飽くまでも知財の観点から意見を述べただけです。
だって、我が家のプリンタは2年前に壊れてからはずっとネットプリントにしてますから(爆)。

場所をとるしインク代高いし劣化するプリンタを所有するよりは必要なときに必要な枚数だけ美しく印刷出来るネットプリントが一番です。

何より、「これ一枚のためにコンビニに行くの面倒だな。なくてもいいか」と思ってあまり重要でないものについてはプリントアウトをためらうので最高のエコです!!

ちなみに、消耗品モデルのビジネスモデルの例としては、他にコーヒーメーカーとコーヒーカプセルがあります。
このコーヒーカプセル、正規品はめっちゃ高いんですよね。
100円以上します。
互換品は正規品の定価の7〜8割くらいの値段です。
インクカートリッジとは違い、リサイクルという概念はありません。(汚いよ)
非正規品は美味しいのかもしれないけどまずいかもしれない、器械が壊れるかもしれないという危険性をはらんでいるので購入する人は躊躇してしまうでしょう。

そこで、コンビニコーヒーです!
ネットプリントも珈琲も全部コンビニで代替できます。場所も取らないし品質は常に一定。

Viva コンビニ!!

セブンイレブンさん、ファミリーマートさん、ローソンさん、サークルKサンクスさん、ミニストップさん、コーヒー無料券をお待ちしております!宣伝記事書きます!!(コーヒー無料券のためにプライドを売る人間)

コーヒーの話をして思いついたのですが、プリンタメーカーは、ネスカフェバリスタみたいにプリンタを無料でレンタルしたらどうでしょうね。
そして、契約で「カートリッジは当社からのみ購入してください。営業の者がカートリッジの交換に伺います。それならレンタル代を永久無料にします。修理や交換も無料です」
といって顧客の囲い込みを行うとか・・・。
相手が納得してくれるのならこういう契約は問題ないでしょう。
あとは、グリコの置き菓子みたいに充填用のインクカートリッジを置いていっちゃうとか。
さすがにプリンタを作っているわけでもないリサイクル業者は企業に出向いて置きインクは出来ないと思います。