藤子不二雄氏の絵柄にそっくりのイラストを描くことで有名になったハシヅメユウヤ氏という人がいます。

すごく可愛いイラストです。

あ、可愛いのは藤子不二雄氏の描く女の子ですが・・・。

さて、この「有名漫画家の絵柄にそっくり似せてイラストを描く行為」は著作権侵害になるのでしょうか。

 

絵柄や絵のタッチ、画風というもののは、表現自体ではなく、表現方法に過ぎません。したがって、著作権法の保護の対象とならないのが通常であることから問題となります。

鳥山明風の絵とか小畑健風の絵、貞本義行風の絵なんてよく見かけますよね。

でも、どことなくそれっぽいんだけど、具体的に何かのイラストとして描かれていたわけではないので、すぐに複製権の侵害だ!とは言えず、○○風の絵だ。パクリだ。と言われるだけです。

 

しかし、今回のケースでは、有名漫画家である藤子不二雄氏がオリジナルのキャラクターとして描いた漫画を簡単に想起できるものなので、複製権の侵害と言うのは簡単でしょう。
(複雑になるのであまり詳しくは述べませんが、ハシヅメ氏のケースでは、不正競争防止法や、民法の不法行為も問題となります。)

複製権だけでなく、公衆送信権の侵害にもなります(他にもありますが、順次解説します)。

 

ここで、訴えられるまでは著作権侵害にならないという考え方は法律上通用しないので気をつけてください。

著作権法(その他の知的財産権法についても)では、権利を侵害する者またはそのおそれがある者に対して権利者(著作権者)は差止請求をすることができます(112条)。

ということは、訴えるまでは著作権侵害にならないとすると、明らかに複製権を侵害しているのに著作権侵害じゃないから差止請求をすることができないというおかしなことになってしまいます。

著作権法は親告罪なので被害者である著作権者が著作権侵害者を告訴して処罰できるのですが、著作権者が告訴しなければ、処罰されません。

 

著作権者としては、イメージが悪くなるため、著作権を侵害されても告訴しづらいのですが、有名漫画家の場合は、早い段階で対応、つまり著作権侵害者を訴えるかどうかということを決めておかないと模倣犯が次々と現れて収拾がつかなくなる恐れがあります。

これは非常に悩ましい問題です・・・。

 

さて、話をハシヅメユウヤ氏に戻しますが、この方のやっていることは、著作権法を学ぶ上で間違いやすいことを効果的に学ぶ格好の材料になりますので、説明してみたいと思います。

 

まず、著作権侵害と「お金」の話。

 

ハシヅメ氏は個展を開きそこでイラストやグッズを売っているようです。

個展の入場料自体は無料で、イラストも格安。
これなら著作権侵害にならないと思いそうですが・・・

 

しっかり著作権侵害になります。

無料だとか価格が安いということは著作権侵害の責を免れる理由とはなりません。
勘違いしやすいところなので気をつけてください。

 

たとえば、一円も儲けていない個人の無料ブログで他人のイラストを勝手に載せると著作権侵害になるというのはわかりますよね?

同じように、少額しか稼いでいなくても、複製権を侵害した著作物を利用した場合は、著作権侵害となります。

 

次に、藤子不二雄氏の絵柄と微妙に違う作品もあるという点です。

 

デッドコピー(ここでは、そのまんま複製しただけという意味。法律用語というわけではないのでしょうが、知的財産権法ではよく出て来る用語です。)の場合は複製権の侵害となりますが、「絵柄がなんとなく似ているだけで具体的に何に似ているのか(どの漫画のどのページのどのコマか)は言えない」という程度に似ている場合にはどうなるのでしょうか。

 

この場合は、著作権法では、「翻案権」の侵害となります。

 

ここで、翻案とは、既存の著作物を基に新たな著作物を創作することです。

小説を原作としてドラマを創ることも翻案ですし、写真を見ながら絵画を描くことも翻案です。

 

したがって、「藤子不二雄氏の漫画のキャラクター(キャラクターと著作権については旧ブログで解説しています。このブログではアップしていたかな・・・?^^;)とそっくりなキャラクターのイラストを描く行為」は翻案権の侵害となるわけです。

 

となると、藤子不二雄氏の絵にそっくりな絵を描いてはいるけれど、ハシヅメ氏の創作性も現れている部分は、ハシヅメ氏個人の著作権として守られそうなのですが、このケースのように「ほぼデッドコピー」の場合は、独自の創作として著作権法で守られる可能性は低く、「翻案権の侵害」に留まることが多いと思われます。
ハシヅメ氏がアーティストであった場合には悲しい結論になってしまいそうですが、このような行為を認めてしまうと著作権者の保護が薄くなってしまうのでしかたありません。

私はどちらかというと日本では著作権者の権利が強すぎると思っている立場ですが、著作権者の権利で守るべきことはしっかりと守るべきだと考えています。

 

 

さて、3つ目の問題として、「藤子不二雄氏の贋作であることを公言している」という点です。

これにより、「偶然の一致」であるという言い訳は通用しなくなります。

 

既存の著作物に依拠して創作したのでなければ、どれだけ似ていても著作権の侵害にはならないのですが、自ら「パクった」と言い放っているので偶然の一致理論は使えません。まあ、デッドコピーをしているので裁判の場で偶然の一致である旨を主張しても認められるわけはないので公言するしかないでしょう。

 

4つ目の問題は、「愛しているから」という理由が通用するか(作品への愛を理由に著作権侵害を免れることができるか)ということです。

 

結論はもちろん「駄目」です。

もしこれが許されるなら、誰でも岸本斉史氏や尾田栄一郎氏の真似をして漫画を描くことができることになってしまいます。

法律に「愛」は関係ありません。

 

ハシヅメ氏は、藤子不二雄氏の作品が好きだと主張しています。

 

しかし、作品自体はしっかりと読み込んでいない様子・・・。

それでも好きということは良いと思います。いろいろな好きがありますから。

 

問題は、「本当はそんなに好きでもないし読み込んでもいないけど、ビジネスとしてイラストを書いて儲けさせてもらっているから好き」という歪んだ愛の場合などです。

この場合は、本当のファンを傷つけます。

本当に好きなら、著作権侵害という犯罪に手を染めるのではなく、別の方法で愛を表現すべきでしょう。

 

または、事前に著作権者に許諾を得るべきです。

 

許諾を得ることができず、それでもどうしても表現したいものがある、という場合にのみイラストを描くこともできるでしょうが、もっとスマートな方法をとるべきでしょう。

 

 

5つ目の問題として、全く関係のない人がハシヅメ氏の創作を真似たらどうかという点です。

 

ハシヅメ氏の場合は、藤子不二雄氏の女性キャラに焦点を当てています。

これを真似して、関係のない人が「藤子不二雄風女性キャラで萌え個展」を開いたらどうなるかということです。

 

結論を言いますと、ハシヅメ氏との関係では著作権侵害の問題は生じえません。

「藤子不二雄氏の女性キャラに焦点を当てる」というアイデアは著作権法で保護されるものではないからです。

 

 

というわけで、著作権法について解説してきましたが、手っ取り早くお金を儲けたい人や有名になりたい人は、ハシヅメ氏が著作権者から訴えられないと判断したならば、自分も藤子不二雄風のイラストを描いてブログに載せたりイラストを販売すると良いと思います。

そして、その場合はハシヅメ氏とはちょっと違うアイデアで売り出すと良いでしょう。たとえば、オバQやコロ助のコピーロボット(何だそれ)を販売するとか・・・。

きっと売れますよ。私は欲しいから(笑)

でも、きっと訴えられるでしょう・・・(笑)

 

というか、ハシヅメ氏はこれだけ可愛らしい絵を描ける人なのだから、ちゃんと著作権使用料を支払ってちゃんとしたビジネスをしてほしかったな。

こちらのサイトで各著作権について詳しく説明しています。
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