弁理士の副業と特許明細書の外注【ポストコロナの働き方改革】

題名に「ポストコロナ」という言葉を使いましたが、今回の記事では私がコロナ前からやっていることについて書きたいと思います。
転職せずに収入を増やしたい、面白い働き方をしたいという方、また、事務所に良い人が来ない…優秀な人材の力が欲しい!という特許事務所・特許業務法人経営者はぜひ御覧ください。

弁理士の副業と外注

ビフォーコロナの世界では、都心に綺麗なオフィスを構えて社員を雇うという仕事の形態が主流でした。
しかし、コロナの影響でリモートワークが可能なことがわかり、都心の高額なオフィスは必須では無いことが判明しました。
「高いオフィスは解約して半分の面積で十分なのでは」と考えた経営者もいることでしょう。

さて、オフィスが不要なことに加え、徐々に意識されるようになってきたのが、
「正社員っていらないのでは」ということです。

いえ、もちろん従業員は必要です。
また、人を雇うことは社会貢献にもなります。

でも、経営側の利益を考えたら、正社員を雇うよりも外注してしまったほうが固定費がかからない分、リスクを抑えられます。
(労働法により一度雇った場合解雇が難しい)
仕事が増えたとしても一時的に増加しただけの可能性もあり、そうであるならば人員を増やすよりも一時的に外注するのがコスパ的には正解です。

コロナ以前からでも正社員から個人事業主になってもらって業務委託契約(民法に沿った言い方をすると、請負契約や委任・準委任契約)をする会社(タニタなど)がありました。
社会保障の面や対外的信用度を考えると正社員の方が良いと思いますが、ガンガン仕事をする人の場合には収入がアップするということもあり、出来る人は業務委託契約の方が良いという面もあるかもしれません。

この制度は「オフィスにいるだけで仕事をしない社員」の首を切って利益の最大化を目指せるので経営者側にとっては非常に嬉しい制度です。

しかし、従業員の立場では、安定性や社会福祉のことを考えると正社員に軍配が上がります。

ところが、知財業界はそうでもないかなと思います。

すなわち、弁理士のような業務独占資格保持者はいつでも独立することが出来るわけですので、外注で請け負うという働き方が出来るわけです。(実際に特許事務所または特許業務法人と雇用契約ではなく業務委託契約を結んでいる弁理士もたくさんいます)
最近流行りのギグワークというやつですね。

また、仕事が減ったときにもバイト感覚で他所の仕事をすることが出来ます。
更には、自分では積極的に明細書の仕事を受けず、やりたいときにだけ仕事を受けるというわがままな働き方も可能となります。

立場を逆(発注者側)にしてみると、明細書はもうそんなに書きたくないからメインの仕事を知財コンサルにして特許の仕事が来たら外注に出して最後の仕上げだけするという働き方も可能です。
商標の仕事が一気に来たけど普段商標やらないから分からない。今だけちょっと力を貸して!と商標弁理士にお願いすることも出来ます。

実際に上記のような受注・発注の仕方で楽しく仕事をされている弁理士はいらっしゃいます。

外注の違法性

「外注って違法じゃないの?」と危惧する声がありそうですが、弁理士会によると、特許事務所が他の事務所の弁理士に仕事を外注することに違法性はありません。弁理士法75条違反にはならないそうです。もしこれが違法になってしまうと、特許技術者の立場の方が危うくなってしまいます。
自分の名前で責任を持って代理をする人さえいれば、あとはコンフリクトと秘密保持に気をつければ堂々と外注をすることができます。(大手事務所では、一つの事務所内でパーティションで分けてコンフリクト解消!秘密保持可能!としているところもありますね)

では、どこで受注先・発注先を見つければ良いのでしょうか。

弁理士の仕事の見つけ方

・・・と、その前に外注というイレギュラーな方法ではなく、直接受任の方法を書いておきましょう。
基本はやはり自分の腕を信頼してくれている人からの指名での直接受任ですから。
既に知っているお客様からの受注やそのお客様から紹介を受けるのが自分にとってもお客様にとっても理想的でしょう。
宣伝や営業のうまい弁理士も良いのですが、弁理士は「職人」ですから、腕の良い職人のもとへ注文が殺到するのが望ましい状態だと私は考えています。どのような方法でも良いので目立って顧客を獲得するという手段を採ると本人にとっても黒歴史になりますし、また、職人気質の人はそもそも自分をよく見せたり営業が苦手ですがそういう人ほど良い明細書を書いたりします。

自分の保有するホームページなどから受任するのも良いですが、腕を見込まれてではないので最初の取っ掛かりとして利用します。
また、ランサーズのようなサイトでお客さんを探すことも一つの手です(仲介料が高い、イメージが悪いという問題もあります)。

それから、弁理士会や友人知人の紹介という方法もあります。
相手の得意分野の仕事を紹介したら代わりに自分の得意分野で仕事を紹介してもらえると考えたらwin-winの関係になるので弁理士同士で連携を組む場合もよくあります。ただし、数が均衡するとは限らないので仲違いの原因にもなっています。なかなか難しいようです。

というわけで、直接受任の方法について書きましたが、外注には外注なりのメリットがあります。
雇われているわけではないので仕事の量を調整出来ますし(多すぎると思ったら断ることが出来る)、いつもとは違う人たちと関わることによって新鮮な気分を味わえますし、違う人の目が入るので明細書の質の向上にも役立ちます。

ただし、外注の仕事を受けてくれる人・発注してくれる人を探すのは至難の業です。
というのは、話が持ち上がっても実際に契約に至ることはほぼ無理だからです。

たとえば、SNSやブログなどに「外注請け負います」と書いたとしましょう。または書かなくても「仕事の依頼はいつでもどうぞ」とでも書いておけばそれを見た特許事務所の人が声をかけてくるわけです。
ブログやSNSをされている弁理士の中には、実際に声をかけられたという人は結構いらっしゃるようです。

ただし、知らない人が知らない人に仕事を発注する場合、お互い警戒しているので、友人知人から仕事を頼まれたときのようには交渉がスムーズに進みません。
発注側と受注側では考え方が全く違うからです。

これが特許業界で外注が求められているのに契約にまで至らない理由の一つでしょう。

ではなぜ私が受注・発注に成功している弁理士たちを知っているのかというと、私が彼らを結びつけているからです。
私は特許事務所と相性の良さそうな弁理士を結びつける仲人をしています。発注者と請負人からそれぞれヒアリングし、彼らの書いた特許明細書を公報で確認し相性の良さそうな事務所をマッチングします。

私が間に入ることにより、お互い直前まで名前を伏せたまま交渉出来ますし、すり合わせが9割済んでからお互いの連絡先を開示するのでスムーズに話が進みます。

最初のうちは、出会い系サイトのようにプラットフォームを設けて勝手にマッチングすればいいやと思っていました。
ところが、上述したように発注者と受注者では意識が全然違うのでマッチングしないのです。情報を載せただけでは一件もマッチングしませんでした。
というわけで、私が間に入ることにしました。私が仲介してからは話がまとまるようになりました。

意外な組み合わせでマッチングすることもあり、正に仲人の気分です。

 

さて、外注を受けるメリットは自由度の高さの他に、契約内容によっては雇われ弁理士をしているよりも時間あたりの報酬が高くなる可能性もあるということがいえます(雇われ弁理士の場合は通常は売上の3分の1程度)。
独立して自由を謳歌しつつ、高い報酬を得られれば最高ですよね。

 

ただし、外注には大きなデメリットがあります。
受任者が直接発明者からヒアリングするわけではないので、明細書の質が低くなってしまうということです。
もちろんこのデメリットを解消するための手段も複数ありますので、外注に頼むと必ず質が下がるというわけではありません。
ただ、クライアントとしては外注に出されることを嫌がります。「あなた」にお願いしているのにどうしてあなた以外の人が書いているんだよ!と怒りたくなるでしょう。質が低下しなければ何の問題もありませんが、質が低下した場合にはクライアントからの信頼を失い、そのクライアントからの仕事を失うことになります。
そんなわけで、事務所の信頼感を失ってしまうことを恐れて、違法性は無いのに外注の一般公募がやりにくくなっています
まぁ、顧客への印象の悪さを考えたら一般公募なんてしないほうがいいです。
クライアントは特許事務所へではなく、弁理士の●●さんに仕事を発注しているのに突然▲さんが現れても混乱するだけです。まぁ、ノルマ出願のようなものなら誰がやっても良いでしょうが・・・。

なお、発注側のメリットとしては、「こぼれた仕事」つまり、忙しくて受けていられないから断っていた仕事を受注して再下請けに出して少しの手間で稼げることも挙げられます。
再下請に出した仕事が能力の高い弁理士(特許技術者)、または自分好みの明細書に仕上げてくれる相性の良い人だった場合には書き直しの手間なく稼げますし、報酬が適切ならば下請け弁理士にとっても好都合です。

弁理士の仕事の外注・まとめ

これらのことをまとめると、外注には違法性がなく明らかに求められているのに今まで行われなかった(行われてはいたけど広まっていない)理由は、「そもそも発注者と受注者が出会う場がない。出会いたくても公に募集するわけにはいかない」、「婚活サイトのようにプラットフォームを作るだけでは意味がない。仲介が無いと”人間”同士を結びつけることが出来ない」「仲介する場合も調整・交渉が難しく、仕事の依頼が来ても上手く契約に結びつけることの出来ない場合が多い」及び「誰か結びつけてくれる人が必要だけど、やっても手間がかかるだけで割りに合わないから誰もやりたくない」からではないかと思っています。

そこで私がウェブ上にクローズドな出会いの場所を設け、手間のかかる調整・交渉を代理しているというわけです。

では、なんで私はこんな面倒なことをしているのかというと理由はいくつもあります。

が、長くなってしまったのでまた日を改めて書くことにします。