短答問題について質問をいただいたので解答を共有いたします。
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ただし、全ての問題について詳しく解説がついているわけではないので、どうしても理解できない問題についてはゼミの先生に聞くのが良いでしょう。
基本的に9割は自己解決出来るはずですが、たまに難しい問題がありますからね。
前置きはこの程度にして、本日平成27年第44問枝4について質問がありましたのでお答えいたします。
枝4 請求項1及び4について請求項ごとに特許無効審判が請求され、一群の請求項である請求項3~5に対して訂正の請求がされた後、請求項4についてのみ特許無効審判の請求が取り下げられた場合、訂正の請求がされた一群の請求項である請求項3~5に対する訂正の請求は取り下げられたものとみなされる。
解答 ×
この問題について一群の請求項を構成するのに請求項ごとに訂正の請求が取り下げたものとみなされるのはなぜかとのご質問でした。良い着眼点の質問です。
最初に結論から言うと、「一群の請求項のうちの一部の請求項に対する無効審判請求が取り下げられたときは、例外的にその無効審判請求が取り下げられた請求項に対する訂正請求のみが取り下げられたものとみなされる。」ことになっています。
条文を読んでいるだけではわからない難しい部分です。
しかし、短答で出題されていますし知っておくべきです。
さて、結論だけを述べて終わりにせず原則から順番に考えてみましょう。
まず、無効審判は請求項ごとに請求することができるのが原則です(特許法123条第1項)
第百二十三条 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
また、無効審判の係属中は訂正審判請求の機会を制限していることから、無効審判が請求されていない請求項についても訂正の請求をすることができます(特許法134条の2第9項、126条7項)。
次に訂正の請求に関する条文を読んでみましょう。
訂正の請求
第百三十四条の二 特許無効審判の被請求人は、前条第一項若しくは第二項、次条、第百五十三条第二項又は第百六十四条の二第二項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。
2 二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、請求項ごとに前項の訂正の請求をすることができる。ただし、特許無効審判が請求項ごとに請求された場合にあつては、請求項ごとに同項の訂正の請求をしなければならない。
3 前項の場合において、当該請求項の中に一群の請求項があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならない。
4 審判長は、第一項の訂正の請求書及びこれに添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面を受理したときは、これらの副本を請求人に送達しなければならない。
5 審判官は、第一項の訂正の請求が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず、又は第九項において読み替えて準用する第百二十六条第五項から第七項までの規定に適合しないことについて、当事者又は参加人が申し立てない理由についても、審理することができる。この場合において、当該理由により訂正の請求を認めないときは、審判長は、審理の結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならない。
6 第一項の訂正の請求がされた場合において、その審判事件において先にした訂正の請求があるときは、当該先の請求は、取り下げられたものとみなす。
7 第一項の訂正の請求は、同項の訂正の請求書に添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面について第十七条の五第二項の補正をすることができる期間内に限り、取り下げることができる。この場合において、第一項の訂正の請求を第二項又は第三項の規定により請求項ごとに又は一群の請求項ごとにしたときは、その全ての請求を取り下げなければならない。
8 第百五十五条第三項の規定により特許無効審判の請求が請求項ごとに取り下げられたときは、第一項の訂正の請求は、当該請求項ごとに取り下げられたものとみなし、特許無効審判の審判事件に係る全ての請求が取り下げられたときは、当該審判事件に係る同項の訂正の請求は、全て取り下げられたものとみなす。
9 第百二十六条第四項から第八項まで、第百二十七条、第百二十八条、第百三十一条第一項、第三項及び第四項、第百三十一条の二第一項、第百三十二条第三項及び第四項並びに第百三十三条第一項、第三項及び第四項の規定は、第一項の場合に準用する。この場合において、第百二十六条第七項中「第一項ただし書第一号又は第二号」とあるのは、「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第一項ただし書第一号又は第二号」と読み替えるものとする。
特許法134条の2第2項で、「二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、請求項ごとに前項の訂正の請求をすることができる。ただし、特許無効審判が請求項ごとに請求された場合にあつては、請求項ごとに同項の訂正の請求をしなければならない。」
そして、同第3項で「前項の場合において、当該請求項の中に一群の請求項があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならない。」とありますね。
これらの規定は、無効審判に対する防御として訂正の請求をする特許権者側に課せられたことです。
一方、同第8項については、無効審判の請求を請求項ごとに取り下げるのは無効審判請求人です。
そして、特許無効審判の請求が請求項ごとに取り下げられたときは、第一項の訂正の請求は、当該請求項ごとに取り下げられたものとみなされます。
つまり、訂正請求人のコントロール出来る範囲では一群の請求項ごとに手続きをしなければいけないところ、訂正請求人がコントロールできない範囲では勝手に訂正の請求が取り下げられるのは酷であると考えられたために、上述した結論に至ったのではないかと考えられます。
短答過去問に当てはめてみると、請求項4について無効審判の請求が取り下げられたので、4についてのみ訂正の請求が取り下げられたものとみなされます。
請求項3と5には何の影響もありません。