特許の世界では自社の開発する発明の技術分野と同じ分野のライバルについて調査することが非常に重要です。
特許はライバルを調査することにより、無駄な研究開発への投資を防げるからです。
研究開発は、まず他社特許の調査から始まると言っても過言ではありません。
他社が自社と同じ技術について研究開発を進めていることがわかったら自社は無駄な研究開発への投資を早期に中止することが出来ます。
また、そもそも特許法は「他社の特許の存在については目を光らせておけ」と言っているようなものです。
なぜなら、たとえ他社の特許権の存在を知らずに同じ特許発明について実施(特許法2条3項)してしまった場合でも、特許権の侵害となってしまうからです。
他社特許のことを知らなかったというのは言い訳にはならないのです。
このように、特許はライバルを意識することが非常に重要です。
特許調査をしたりパテントマップを作るということは大事な作業です。
特許の世界では、ライバルを無視するということはすべきではありません。
しかし、少しずれて、ビジネスの世界や創作の世界ではどうでしょうか。
既にライバルが失敗していたらたとえ自社がその分野での事業化の準備を進めていたとしてもその分野には参入すべきではないのでしょうか。
同じモチーフやアイデアに基づいて創作をしている人がいた場合には、同じ分野で創作すべきではないのでしょうか。
たとえば、ドラゴンクエストというRPGが人気がある状況において、似たようなファンタジーゲームを発売することはどうなのでしょうか。
「ドラゴンクエストの人気があるからうちもまねして」という理由だったらただの二番煎じでしょう(それでも数を出して、質もそれなりの物を創れれば二番煎じでも良いと思います。必ずしもイノベーターが賢いとは思いません)。
しかし、たとえば音楽の分野で被り物を被って演奏するというバンドが存在したら、昔から被り物を被って演奏してきたバンドは「モノマネと思われるのが嫌だから」という理由で被るのをやめてしまっていいのでしょうか。
文字通り、他者と「かぶらなくなる」わけですが、そのようにして「他者との差別化」を図るのはどうなのでしょう。
自分がそれを好きでずっとやってきたのなら、たとえ似たようなライバルの存在があっても、自分を貫いていいと思います。
他者がやっていないことをするために他者を調査するのもよいのですが、
他者を研究するとどうしても影響を受けてしまうので、あえて全く見ないというのもいいかもしれません。
優れた創作を見ていると、いつのまにか吸収してしまい、自分が創作するときについ似たような表現をしてしまうという危険性がありますから。
たとえばこの日本語で書かれた文章。
私が過去に読んだ本や話を聞いた人の影響を受けているはずですが、具体的にどの本か
とは言えません。日本語は既に私の血肉と化しているためです。
誰か著名な作家の表現と全く同じ表現を使っているところもあるかもしれませんが、それは意識して表現を模倣しているわけではなく、自然にそうなってしまっているだけです。
著作権の侵害の要件である「依拠性」が見当たらないわけです。
ビジネスでも創作でも、流行など気にしないでひたすら自分を貫くのも良いのではないかと思います。
世間が「これからはソーシャルメディアマーケティングだ!」と言っているのならあえて、自社はソーシャルメディアを重視しないでいるのもいいかもしれません。
ペットビジネスがブームなら、ペットを飼わない(飼えない)人向けのビジネスを考えても面白いかもしれません。
ロックミュージックが流行っているなら、子供の頃から好きだった演歌とポップミュージックのコラボ(自分のおばあちゃんがボーカル)をしてもいいかもしれません。
ただ単に奇をてらったわけではなく、自分の血肉となるほど自然に上手に表現できていれば、ファンも付くでしょう。
付け焼き刃の二番煎じのアーティストではそのレベルまで、おいそれとは追いつけないでしょう。
モティーフやアイデアといったものは著作権法で保護されるものではありません。
ですから、あるアーティストがあるアイデアで人気が出るとすぐにそれを真似たアーティストが雨後の竹の子のようにニョキニョキと現れてきます。
しかし、流行り廃りに関係なく「それをやるしかないから」アートという形で自分を表現しているのなら、他者に真似されようがずっと自分を貫いていけると思います。
好きでもないことを流行りだからという理由でずっと続けるのは辛いでしょう。
動画制作なんて好きでもないのにYouTubeが流行っているから動画制作の勉強をするなんて精神的に消耗してしまいます。
それよりは、「本当に好きでやらずにはいられないこと」を時間をかけて見つけて、それを穿けば「夢中(=フロー)」状態になれるので、他者は追随出来ないほどの成果をあげられると思います。
知的財産権の世界では他社調査の重要性ばかり取り沙汰されますが、ビジネスや創作の分野ではライバルを無視するのも良いと思います。