意地でも落とそうとする試験官と頑張る口述受験生

あと数日で2019年度弁理士試験口述試験が始まります。
口述試験受験生は、最後まで気が抜けませんね。

さて、論文のときもそうですが、口述試験対策の話をしているときに、たまに気になってしまうことがあります。
それは、『用語の使い方が変』なときです。

『組物(くみもの)』を『そぶつ』と読んだら笑いをとれるかもしれませんが、「商標権の存続期間の更新を請求する」なんて言われたら、意地悪な試験官だったら、「はいー?今なんておっしゃられましたぁ〜?」とツッコんでペケを付けるでしょうから気をつけなくてはいけません。
※正しくは「商標権の存続期間の更新登録の申請をする」です(商標法20条)。

というわけで、実際にはこんな試験官はいないけど、いたら怖い『用語の使い方にうるさすぎる試験官』との会話を創作してみました。

 

試験官:特許出願の流れについてお尋ねします。
甲が発明をしました。甲がした発明について権利化するためにまずすべきことは何ですか?

受験生:特許出願をします。

試験官:特許出願をした後はどうしますか?

受験生:その発明について出願審査請求します。

試験官:もう一度言ってください。

受験生:その発明について出願審査請求します。

試験官:もう一度言ってください。

受験生:その発明について・・・(え?俺、なんか間違ったこと言ってるっけ?えっと・・・、あ、そうか!)
失礼いたしました。その出願について審査請求をします。

試験官:そうですね。では、その発明が新規性を有しない場合、その発明は拒絶されますか?

受験生:はい。

試験官:本当ですか?その発明が拒絶されるのですか?

受験生:すみません。拒絶されるのは出願です。(この試験官、性格悪いぞ・・・)

試験官:そうですね。では、特許が登録されました。
甲は特許権を活用する手段として、自分で特許発明を実施する他に何ができますか?

受験生:ライセンスをすることが出来ます。

試験官:特許法上の言葉を使ってください。

受験生:は、はい。他者に専用実施権又は通常実施権を設定することができます。

試験官:専用実施権と通常実施権を設定するのですか?

受験生:はい・・・[法文集に手を伸ばす]

試験官:法文集を見るときには声をかけてください。

受験生:はい!申し訳ありません。

えっと・・・通常実施権については許諾します!

試験官:そうですね。設定するのは専用実施権で通常実施権は許諾ですね。

受験生:(わかってるよ。わかってるけど一緒くたにしちゃっただけだよ・・・)

試験官:では、通常実施権と専用実施権の他の実施権をあげてください。

受験生:裁定通常実施権、法定通常実施権・・・

試験官:一つずつあげてくださいね。法定通常実施権にはどのようなものがありますか?

受験生:先使用権です。

試験官:意匠法にも先使用権はありますか?

受験生:はい。

試験官:商標法にも先使用権はありますか?

受験生:はい。

試験官:特許法における先使用権と同じですか?

受験生:少し違います。

試験官:違いを述べてください。

受験生:特許法の場合は先使用による通常使用権(特許法79条)ですが、商標法の場合は、先使用による商標の使用をする権利です。(表面的な用語について説明したけど、内容を述べるべきなのか?)

試験官:そう。商標法32条ですね。

受験生:はい(なんだ、あれでよかったのか)[水を飲む]

試験官:水を飲むときは断りを入れてから飲んでください。

受験生:は、はい。申し訳ありません!

試験官:では、次に行きます。乙さんが甲さんの特許発明の下位概念に該当する発明をし、特許が登録されました。
この場合、乙さんの特許発明は甲さんの特許発明に対しどのような関係にありますか?

受験生:利用関係です。

試験官:では、抵触関係とはどのような関係を言いますか?

受験生:たとえば、丙さんが登録意匠を有しているときに甲さんの特許発明と外観が似ているために登録意匠を使用できない関係を言います。

試験官:甲さんの特許発明と、乙さんの登録意匠が抵触関係にあるのですか?

受験生:はい(違ったかな・・・?条文は何条だっけ・・・)

試験官:甲さんの特許権と、乙さんの意匠権が抵触関係にあるのですよね?

受験生:は、はい!(副さん、ナイスフォロー!ありがとうございます!!)

試験官:意匠法に特有な制度として、どのような制度がありますか?

受験生:関連意匠制度があります。

試験官:他には?

受験生:秘密意匠制度があります。

試験官:では、甲が意匠を創作し、意匠登録出願をしました。甲はいつでもその出願を秘密にすることを請求することができますか?

受験生:いいえ、一定の期間に限られます。

試験官:一定期間内であればその出願を秘密にすることを請求できるのですか?

受験生:はい・・・(え、違うの?)

試験官:その意匠を秘密にすることを請求することができるんですよね?

受験生:そうです!(「いつでも」と言われたら時期の問題かと思うだろ!ひっかけかよ!副さんだけで口述試験してくれーー)

試験官:願書の記載又は願書に添付した図面、写真、ひな形若しくは見本についてした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならないとされています。これに対し、意匠登録出願人のとり得る措置について述べてください。

受験生:補正後の意匠について新出願をすることができます。

試験官:他には?

受験生:補正の却下について審判を請求することができます。

試験官:本当ですか?

受験生:(嘘つくわけないじゃん。でもこれじゃ間違ってるんだろ。えーっと・・・)

試験官:意匠法17条の2第4項には以下のように規定されていますね。
『審査官は、意匠登録出願人が第一項の規定による却下の決定に対し補正却下決定不服審判を請求したときは、その審判の審決が確定するまでその意匠登録出願の審査を中止しなければならない。』

受験生:つまり・・・?あ、補正の却下の決定に対し、補正却下不服審判を請求できます!

試験官:そうですね。概ねよく出来ていました。

受験生:ありがとうございます(今のお礼は副さんに対してのものだ。断じてあなたではない)

試験官:では、最後の問題です。

受験生:はい(まだあるんかいっ!)

試験官:その延長登録が基準日以後にされていない場合の出願に対してされたとき、延長登録無効審判を請求できますか?

受験生:(自信ないけど)はい。

試験官:本当ですか?延長された特許を無効にするのではないのですか?

受験生:あ、そうですそうです。

試験官:違います。

受験生:え?

試験官:私が述べたことで合っています。

受験生:は、はい・・・?

試験官:誘導されないよう気をつけましょう。

受験生:(あんたは味方じゃなかったんかー!!)はい・・・。

 

試験官:お疲れ様でした。これで全て終了です。いかがでしたか?

受験生:緊張しました(とてもお疲れですし、人生終了した感じですよ)。

試験官:それは大変でしたね。気をつけてお帰りください。

受験生:はい。ありがとうございました。

試験官:さようなら。

受験生:さようなら。

 

以後、彼を見たものはいない・・・。                   了