*この記事は旧ブログ「問題解決中」の記事と同じです。実際の日付は2年ほど前です。リンクを下さっていた方はこのブログのアドレスに設定し直してくださると助かります。
大阪道頓堀にあるカニ料理専門店「かに道楽」が愛知県の老舗練り物会社ヤマサを商標権侵害で大阪地裁に提訴したというニュースを見ました。
産経ニュースhttp://www.sankei.com/west/news/161108/wst1611080001-n1.html
同記事によると、株式会社かに道楽は商標権を有しているため、無断で「かに道楽」という名称を使用しているヤマサを訴えたが、ヤマサ側も「うちはかに道楽の商標登録出願前から当該商標を使用しているから正当権利者だ」と反論しているとのことです。
さて、この訴訟の行方はどうなるでしょうか。
私、福田の予想は「和解で終わるんじゃない?」です。
その理由として、まずは「先使用権」についてご説明したいと思います。
商標法における先使用権(商標法32条)は、「他人の商標登録出願前から、日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品(または役務)またはこれらに類似する商品(または役務)についてその商標(または類似商標)を使用していた結果、その商標登録出願の際、現にその商標が自己の業務に係る商品(または役務)を表示するものとして需要者(消費者など)の間に広く認識されているときは、その者は継続してその商品(または役務)についてその商標の使用をする権利を有する。」ということになっています。
この規定に当てはめると、株式会社かに道楽の商標登録出願時点よりも前からヤマサちくわが不正競争の目的でなく、「かに道楽」を「かにかまぼこ」に使用していたために、「かに道楽」がヤマサちくわのかにかまぼこを表示するものとして周知になっていた場合はヤマサちくわは今後も継続してかにかまぼこについて「かに道楽」の商品名を付して販売できることになります。
そこで、順番に規定の要件を考察してみます。
まず、一番最初に「株式会社かに道楽はいつ商標登録出願をしたか」ということですが・・・。
ニュース記事には「昭和47年(1972年)12月」と記載されています。
しかし、私が調べたところ、そんなに早い時期に商標登録出願は行われていません。
「かに道楽」ではない違う商標なら出願されていましたが・・・。
「かに道楽」商標が出願されたのは、ようやく昭和56年(1981年)になってからです。しかも指定商品は「ビール」や「日本酒」などであって、ねり製品は関係ありません。
1990年4月には指定商品「かに」などについて商標登録出願が行われていますが、登録されたのは純粋な「かに道楽」ではなく、「JRI 株式会社かに道楽」です。
お店で提供されるかに料理について「かに道楽」が商標登録出願されたのは1992年6月です。
お持ち帰り用のかになどについて「かに道楽」が商標登録出願されたのは2013年4月になってからやっとです。
つい3年前じゃないですか!商標登録出願を忘れていたのかもしれませんね。
昔、出願代理した弁理士さんは指摘してあげなかったのかな(^^;
さて、ヤマサのちくわが「かに道楽」という名前でお店で提供されていた場合、1992年6月以前から提供され、かつ周知(全国レベルの周知性は必要なく、隣接都道府県において知られ、または愛知県だけで知られている程度で良いと思われます)になっていた場合には、レストランや定食屋さんでヤマサのちくわについて「かに道楽」を使用することには先使用権が認められます。
また、お持ち帰り用のかまぼことして「かに道楽」が使用されていたのが2013年4月以前であり周知性が認められるなら同じく先使用権が認められます。
したがって、時期的要件としてはヤマサちくわにとって非常に有利な状況なわけですが、問題は「周知性」です。
上記したように隣接都道府県、たとえば東海4県の地域において「かに道楽」というかまぼこの存在が有名なら周知性は認められるわけですが・・・。
どうでしょうね。私は東海地域には住んでいないのでわかりませんが、東海の人、どうですか??
この訴訟は「周知性」の認定によってかに道楽の主張が認められるか否かが別れると思います。
さて、もし周知性が認められず、ヤマサちくわは先使用権を有さないと判断されたらヤマサちくわは以後かまぼこに「かに道楽」商標を付して販売できなくなります。
一方、周知性が認められ、ヤマサちくわは先使用権を有すると判断された場合、どうなるでしょうか。
この場合でも、ヤマサちくわは大々的に商標を使うことはできません。カタログに乗せて全国的に販売、なんてできません。今まで細々としてきたことを続けられるだけです。
なぜなら、商標権の効力は絶対的なので、「先に使っていた」だけでは範囲を広げてまで使用することは認められないからです。
そうしたいなら自分がきちんと商標権を取得するか、商標権者にお金を払ってライセンスを受けなければいけません。
また、商標権者である株式会社かに道楽には「混同防止表示請求権」が認められます。
ヤマサちくわの「かに道楽」が本家とのコラボ商品だと思われたら困りますからね。
というわけで、この訴訟は株式会社かに道楽側が買っても負けてもそれほどかに道楽にダメージはないと思います。
また、ヤマサちくわ側も「かに道楽」の使用でそれほど儲けているとは思えませんし、だいたい最近では「かに道楽」の使用をやめて「かにづくし」という名前に変更しているらしいので、先使用権にこだわって訴訟を長引かせるよりも、和解をしてしまったほうが訴訟経済的に得策だと思います。
でもまあ、プライドだとかいろいろあるのでどうなるかは、カニ・・・いえ、神のみぞ知るのでしょう。
ところで商標法の先使用権についてはメインサイトで書き忘れていました(^^;
まあ法律は違っても考え方としては似ているので特許法の先使用権についての説明をご覧ください。