贋作と著作権と美内すずえの絵日記の偽物

贋作(がんさく)*と聞くとあなたは何を想像するでしょうか。

   *オリジナルを創作した作者とは別の作者によって模写や模作され、作者の名を騙った絵画・彫刻・書などの芸術品や工芸品。

 

ゴッホやフェルメールの偽物?

メーヘレンやベルトラッチの精巧な贋作技術?

 

有名画家の絵は、目が飛び出るほどの高額で売買されるため、何百年も前の昔から贋作は絶えることがありません。

 

著作権法など存在しなかった昔でも贋作が禁止されていたのは、それにより市場が混乱し、本物の美術的・歴史的価値を失わせる危険性を有しているからです。

 

また、模倣により儲けることは不当だという感覚があったからでしょう。

 

 

では、現在では、贋作はどのような法律違反になるのでしょうか。

 

 

まず、本物を模写することになるので、複製権の侵害になります。

また、完全に同じではありませんから、翻案権の侵害にも該当する虞があります。

 

さらに、公表権・氏名表示権・同一性保持権の侵害にもなります。

 

このように、贋作という行為は、様々な著作権を侵害することになります。

 

では、美術館が贋作だということを知らずに絵画を買って展示してしまった場合はどのような罪に問われるでしょうか。

 

「知らなかったのだから仕方ない。」

そう、倫理的に考えるとそうなりますよね。

 

法律的にもきちんと規定してあります。

 

展示権
第二十五条 著作者は、その美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有する。

 

「現作品により」とありますから、複製物である贋作を公に展示しても展示権の侵害にはなりません。

 

漫画と贋作

では、上記のことを基本知識として念頭に置き、ここからが本題です。(長かった!)

 

現代日本では漫画家の描いた原稿やイラストが売買されることがよくあります。

特に、手書きの一品物のイラストなどは高値で売買されることがあります。

 

メルカリやヤフオクのようなオークションでは、よくそういったイラストが出品されていることと思います。

インターネットオークションサイトは知的財産権侵害物品が多いので、偽物を掴まされる可能性も非常に高いといえます。

 

中には「○○さんへ」と宛名が書いてあるサイン色紙まで販売されていたり・・・。

ファンからしてみれば、漫画家を冒涜するな!と怒りたくなるようなことが行われています。

(余談ですが、私が子供の頃、とある漫画家の先生に手紙を出したら、手書きのイラスト付きのハガキをもらったことがあります。アナログの素敵な時代でした・・・。)

 

美内すずえの絵日記の販売

さて、最近Twitter上で話題になった事件があります。

それは、ガラスの仮面で有名な美内すずえ先生の子供時代の絵日記と称したものがオークションで販売されていたという悪質な事件です。

この絵日記は自身が描いたものではないと美内すずえ氏ご本人が否定されています。

偽の絵日記(美内すずえTwitterより)
偽の絵日記(美内すずえTwitterより)

そもそも、販売側は、出品物の真否について事前に確認しなければいけないところ、その確認を怠ったようです。

こういった詐欺は昔から行われているので、販売者は著者本人に確認をとるべきでした。

 

特に現代ではTwitterという便利なものがあり直接本人に確認を取ることができるので、確認は楽ちんです(もちろんTwitterをされていない著者の方もたくさんいらっしゃいます)。

 

未然に販売を防げたということでとりあえず収束しましたが、類似の詐欺を防ぐためにも、Twitter民が束になって詐欺絵日記販売者を探し当てるところを見たかったような気がします・・・。

 

なお、この事件のより悪質なところは、贋作のように「既に存在する著作物に依拠して模写する」のではなく、「有名作家の名前を語って販売している」ところです。

この場合、複製しているわけではないので複製権の侵害にはならないのですが、詐欺行為であることに違いは無いので、民法上の不法行為として美内すずえ氏やくだん書房は詐欺を行った者に対し損害賠償請求をすることができると思われます(民法709条)。