2018年11月29日に「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」が発表されました。
このガイドラインの発表により、「任天堂、マジ神!」と賞賛の声があがっています。
一方、「このガイドラインのどこがすごいの?」と疑問を持っている人もいると思います。
また、
任天堂は、このガイドラインおよびQ&Aに関する個別のお問い合わせにはお答えいたしません。ご了承ください。
と記載されており、疑問点があっても任天堂に問い合わせて解消することはできません。
(おそらく、同じような質問が複数あった場合には、Q&Aに追加されていくことと思いますが)
そこで、任天堂の発表した著作物利用ガイドラインに沿ってご説明しようと思います。
(私独自の見解が多いのでご注意ください・・・)
なお、基本的に、以前書いた「ゲームの実況中継はどこから違法なのか。著作権法に基いて解説」という記事と同じです。
任天堂の著作物利用ガイドライン
任天堂の発表した著作物利用ガイドラインには、大雑把に言うと「個人なら事前に申請をすることなく、任天堂の著作物を動画投稿サイトにアップしてお金を儲けてもいいよ」ということなどが書かれています。
これを聞いて「みんなやってることじゃん」と思う人も多いと思います。
その感覚は正しいです。
みんな”著作権侵害”をしてきたのですから。
この任天堂の発表した著作物利用ガイドラインの優れたところは、権利者側の期待と実際に行われていることの間に違いがありすぎるので、その差を埋めて、現実に合わせた、ということです。
比較として、ペルソナシリーズなどで有名なアトラスの指針について示してみたいと思います。
たとえば、アトラスでは、広告のついているブログにアトラスの著作物である画像を載せることを禁止しています。
営利目的で画像を利用する場合にはアトラスに対し、使用料を支払わなければいけません。
ということは、アトラスの著作物を見て自分で描いた絵をアップロードする場合は著作権侵害の可能性があるのですが、同人誌と同じグレーという感覚で行われているようです。
このように、ゲームの実況中継や同人誌の扱いなどはルールが不明確でわかりにくいと言えます。
著作権を日常の業務にしている人たちでも、ゲームの著作権について聞かれると、すぐには答えられない人が多いです。
著作権法というよりも「ゲーム業界独自のルール」というようなものがあるからです。
今回のように「会社によって考え方が違う」ということもありますし、利用規約が随時更新されていくものだからです。
同じように音楽著作権なども難しいです。
法律云々よりも「業界の慣習」が重視されているからです。
本当はこういう状態は良くないと思うのですけどね。
現状では、各企業の定めたルールに則り、ユーザーが適切に動画投稿を行うということがベストです。
なお、適法か違法か迷ったら、「これをしたら任天堂の宣伝になるから任天堂は喜んでくれるかな?」という基準で判断すればいいと思います(笑)
私は、任天堂という会社は、目先のお金儲けを嫌い、長期的な視点で物事を考える会社だと思っています。
だから、e-sportsやソシャゲにも消極的ですし、ゲームは子どもたちが安心して楽しめるものであるべきだと考えています(私個人の考えであって任天堂の発表ではありません)。
任天堂は、アダルト、特に児童ポルノに関しては毅然とした態度を取っていくものと考えられます(昔、ポケモンのアダルト同人誌を描いていた個人が摘発されましたね)。
これは短期的にはファンを逃すことになりますが、長期的に見ると、親子のファンが付き、健全に楽しめる空間を提供できることから、大きな信頼を得られることに繋がるので、企業戦略としては優れていると思います。
(ちなみに目先の欲に駆られて中毒性のあるゲームをどんどんリリースしていくという真逆の方法を取る企業もそれはそれで戦略として正しいとは思います。ただし、その生命は短いと思います)
基本的に、投稿者だけが有利になるような使い方はアウト、任天堂にもプラスになる使い方ならOKという基準で考えてやっていけば大きな問題には繋がらないと思います(ただし、自分の倫理観に自信の無い人は要注意!)。
任天堂のガイドラインの細かな説明
個人であるお客様は、任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画等を、営利を目的としない場合に限り、投稿することができます。ただし、別途指定するシステムによるときは、投稿を収益化することができます。
⇒この文章からだけでもたくさんのことが読み取れます。
たとえば、「個人」とあることから、法人は対象外です。
また、引用する場合を除き、広告が貼ってある自分のブログなどに「絵を載せると目を引くから」等の理由により任天堂が著作権を有する画像(たとえば、マリオの画像など)を載せることは許されません。
さらに、youtubeやニコニコ動画、twitterなど一定の動画投稿サイトに投稿する場合は収益化することができます(常に認められるわけではありません。)
なお、「別途指定するシステム」とは、以下のものを指します(2018年12月1日現在。随時更新)
Facebookの「Facebook Game Streamer」および「Facebook Level Up Program」
ニコニコ動画/生放送の「クリエイター奨励プログラム」および「ニコニコチャンネル」
OPENREC.tvの「OPENREC Creators Program」
Twitchの「Twitchアフィリエイトプログラム」および「Twitchパートナープログラム」
Twitterの「Amplify Publisher Program」
YouTubeの「YouTubeパートナープログラム」
※随時更新されます。
投稿に任天堂以外の第三者が有する知的財産権が利用されている場合、このガイドラインとは別に、その知的財産権の権利者から許諾を得る必要があります。
⇒この例としては、たとえば、任天堂のゲームの動画に第三者の書いた文章を表示することなどが挙げられます。
なお、他のゲームの曲(著作物)を利用したい場合、許可がもらえることはないと思います。
なぜなら、「世界観」(このガイドラインの一番最初に載っている言葉です)を壊してしまうことになるからです。
ドラゴンクエストの曲でマリオをプレイ・・・って無茶苦茶ですよね。
任天堂は、Nintendo Switchのキャプチャーボタン等の機能を利用する場合を除いて、お客様ご自身の創作性やコメントが含まれた動画や静止画が投稿されることを期待しております。お客様の創作性やコメントが含まれない投稿や任天堂のゲーム著作物のコピーに過ぎない投稿はご遠慮ください。
⇒著作物を利用する場合、「引用」という方法によれば、著作権者の許諾を得ることなく著作物を利用することができます。
引用する場合には一定の決まりがあるのですが、このガイドラインの場合には、引用の要件を大幅に緩和したものと言えます。
お客様が事実に反して、任天堂や任天堂の関係者から、協賛や提携を受けているようなことを示唆したり、誤信させたりしないでください。
⇒これも著作権侵害と同じで簡単にできますが、非常に恥ずかしい行為ですし、絶対にやってはいけません。詐欺に当たります。
任天堂は、違法または不適切な投稿や公序良俗に反する投稿、このガイドラインに従わない投稿に対して、法的措置を講じる権利を保持しています。
⇒これまでと違って、事前審査制ではなくなったので、誰でもすぐに投稿出来るようになりましたが、その分、「任天堂が投稿してほしくない投稿」も増えてしまう恐れが増します。
そのため、任天堂は今まで以上に、ガイドラインに違反した投稿に対して厳しい対応をしてくることと思います。
たとえば、任天堂が制作した動画や他人の投稿をそのまま転載したり、ゲームのサウンドトラックを利用しただけの作業用BGMとしての投稿、イラスト集等をコピーして自分のブログの宣伝をするだけの投稿等は、何らの創作性も無く、投稿者のコメントが含まれないため、ガイドライン違反として警告がされることになるでしょう。
Q6.ゲームのプレイ動画やスクリーンショット以外の任天堂の知的財産に基づいて創作したもの(例えば、ファンアート等)を投稿することは、このガイドラインの対象ですか。
A6.このガイドラインは、任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画を、適切な動画や静止画の共有サイトへ投稿することを対象としたものです。これ以外の任天堂の知的財産の利用や創作は、各国の法令上認められる範囲内で行ってください。なお、任天堂は、お客様の著作物の利用が法令上認められる範囲のものであるかどうかについてのお問い合わせにはお答えいたしかねますので、あらかじめご了承ください。
⇒過去に話題になった「クッパ姫」のようなファンアートに対する対応策ですね。
クッパ姫が海外発祥だったこともあり、「これ以外の任天堂の知的財産の利用や創作は、各国の法令上認められる範囲内で行ってください。」と書かれていますが、日本国内においてはこう、という説明を載せておけば良いのではないかなと思いました。
任天堂側でもどうすべきか対応が決まっていない感じですね。
ファンとしてはどうして良いか迷うところでしょう。
安全性を考えたら「いわゆる二次創作は発表しない」のがベストですが、イラストレーターさんとしては発表したいですよね。
今後のガイドラインの更新が気になるところです。
Q8.任天堂が著作権を有するゲームを使用したゲーム大会をオフラインで実施し、そのゲーム大会でのプレイ動画を、動画の共有サイトに投稿することを企画しています。このプレイ動画の投稿は、ガイドラインの対象ですか。また、オフラインでのゲーム大会の実施は、ガイドラインの対象ですか。
A8.任天堂が著作権を有するゲームのプレイ動画を、動画の共有サイトに投稿することは、このガイドラインの対象ですが、オフラインのゲーム大会の実施は、ガイドラインの対象ではありません。なお、ゲーム大会でのプレイ動画を動画の共有サイトへ投稿したとしても、その投稿をもって、オフラインのゲーム大会の実施自体が、ガイドラインの対象になるわけではありませんのでご注意ください。
⇒これは、つまり、ゲームバーなどで任天堂の許諾を得ずにスマブラ大会を勝手に開催して盛り上がった様子を撮った動画をユーチューブなどに投稿した場合、任天堂の著作権を侵害することになるよ、ということです。
その他注意点
・任天堂のゲーム著作物を利用して創作した動画や音楽、静止画等を、任天堂の許可なく販売してはいけません。
「他人(任天堂)のふんどしで相撲をとるのは卑怯」ですよね。
・上記に関連する例として、「セミナー(内容問わず)で任天堂の著作物であるイラストや動画を無許諾で使う」「youtuber養成講座などで任天堂の著作物を勝手に使う」といった行為は著作権侵害と鳴り、思い罰を受けることになりますので注意してください。
任天堂の著作物に限らず、他者の著作物(たとえば有名漫画やアニメなど)を勝手に使うと刑事罰も受けることになるので、過去に営利目的でやった人は二度とやらないようにしてください。
任天堂の著作物利用ガイドライン・まとめ
基本的にこのガイドラインは、著作権法に基礎を起きつつも、任天堂独自のルールです。
これからもどんどん改定されていくでしょう。
そのため、利用者としては、いつのまにかルールが変わっていたために「そんなん知らなかった!」と感じることもあるでしょう。
しかし、その「知らなかった」ことは、大抵の場合、良い方向=ユーザーに有利な方向への改訂だと思います。
なぜなら、後から厳しくするとユーザーの反感を買うことは容易に想像できるため、そんなことをするとは思えませんし、また、まだまだこのガイドラインは厳しく、使いやすくする余地はあるからです。
もし今後ガイドラインに追加されていくとしたら、ストーリー性のある内容のネタバレの扱いなどではないかと思います。(マリオカートなどはストーリーが無いので問題ありませんが、ゼルダの伝説のようなゲームだと、先の内容がわかってしまうと推理小説のネタバレのようにつまらなく感じてしまうこともあると思います。
もちろん、ネタがバレたところでプレイを止めてしまうほどゼルダはクオリティの低いゲームではありませんが、ネタバレは楽しみの一つを奪う原因となります。)
以前書いた記事でも触れたように、ネタバレはゲームの根幹に関わってくることなので、ゲーム会社としてはやってほしいことではありません。
しかし、知りたい!という欲求もあるでしょう。
そこで、たとえば「発売後○か月経過したらネタバレOK!ただし、ネタバレ有りと表記してね」という感じの扱いになるのではないかなと思っています。
(私がそう思っているだけなのでどうなるかはわかりません)
今回は任天堂による著作物の利用ガイドラインの説明でしたが、今後はスクエアエニックスやカプコン、アトラスといったゲーム会社からも類似のガイドラインが発表されるかもしれませんね。