夢を売る商売の功罪

日々忙しく働いている皆様、疲れて心が荒んでしまうことはないでしょうか。
そんなとき、人によっては美味しいものを食べに行って明日への活力を養うでしょう。
また別の人はマッサージを受けて元気を出すでしょう。
飲みに行って夢を語る人もいるでしょう。

”夢”について語るとき、脳内で快感物質が増大し、気分が高揚すると言われていますが、本当にこのとおりだと思います。
私はあまり飲みには行きませんが、喫茶店や電話などで友人や知人が夢を語っているのを聞くことが好きです。そして、「こういうこともできるよね。こうするといいかも」とアイデアを出すと盛り上がります。
たとえ実現には至らなかったとしても夢を語るだけで人は気持ちよくなることが出来るので、『夢聞き屋』のビジネスが出来るのではと思ってしまうほどです。

さて、ある弁理士さんから聞いた話ですが、昔は発明家から相談を受けた場合、その発明の内容がとてもビジネスには役立たないようなものでもお金さえ出してくれれば何でも明細書を書くのが普通だったといういうような話を聞きました。

だって、弁理士の仕事は明細書を書くこと。
その発明がビジネスでどれだけ役に立つかなんて知ったこっちゃありません。
そんなわけで、発明の内容に関わらず何でも明細書を書いてきっちり請求をしていたのだそうです。
(なお、現在でもそうした人はいるとかいないとか・・・)

しかし、私にはそれは意義のあることだとは思えません。

なぜなら、過去に個人発明家からビジネス相談を受けているのですが、その人たちは全員金儲けのためにやっていました。老後の資金を蓄えるために発明をして一攫千金を狙いたいとかそんなことを考えている人たちばかりでした。
そして、なんだか怪しげな人に相談してビジネスを形にしようとしていました。
そんなとき私は「やめておいたほうがいいです。それではお金をドブに捨てるようなものです」と助言をします。
だって、発明を形にしてそれで儲けることには多大な努力が必要なのに弁理士でも無い人に相談してもらったアドバイスが役に立つことは殆ど無いからです。

 

しかし、私がせっかく善意でアドバイスをしても、人は信じたいことしか聞き入れません。

「いえ、きっと彼の助言は役に立つはずです。そして私は儲けることができます」とおっしゃいます。
「それならお好きにどうぞ」としか言えませんがそんなことを言うのはさすがに意地悪なので何も言いませんが、人はお金に目がくらむと、美味しそうな話に容易に騙されてしまうのだなー(&自分に都合の悪い事実からは目を背けるのだな)とつくづく思います。
(なお、過去に「ある弁理士に意匠を取るように助言されたのですがそれには大金が必要です。私には彼が嘘を言っているように思えます。
知人に相談したら意匠なんて言うものは幻想であり受賞歴が大事だと言っていた」というよくわからない話を聞いてことがあります。個人発明家を相手にしている弁理士さんはこのような迷言をたくさん聞いているのだろうなと同情を禁じえません)

もし弁理士が自分のお金儲けだけを目的としていたら、無意味な特許を取らせようとするでしょう。

そして、個人発明家も特許をとってビジネスを成功させるのが目的ではなく、特許証を取るのが目的なのならそれでも良いでしょう。
そんな紙切れ一枚を数十万円出して買う意味がわかりませんが。

 

このように、情報弱者を騙すビジネスはこの時代においてもまだ残っています。

知財の専門家の方の場合は「こんな詐欺ひっかかるわけないよ」と思うかもしれませんが、ジャンルをズラされるとどうでしょうか。

 

たとえば、出版詐欺。

お問い合わせ先が書いてあるブログをやっている人に向けて、出版社が「本を出版しませんか?」という連絡をしてくることがあります。
メールにはブロガーの承認欲求をくすぐる書き方がしてあります。

 

こんな感じ。

 

弊社では「○○○○○」をテーマとした出版をする企画が決まりました。
そこでインターネットで貴殿のページを拝見した結果、ぜひ取材させていただきたいと思いご連絡させていただきました。

①出版までの流れ
取材→弊社会議による審査→契約書の確認→スケジュールと本の内容の打ち合わせ→執筆→出版

②料金
印刷代は弊社の方で負担いたします。
編集代の50万~55万を負担していただき出版が可能となります。

どうでしょうか。この胡散臭さ。
普通の出版社はこんな企画持ち込むわけありませんが、人によっては信じてしまうのではないでしょうか。

「弊社会議による審査」とか「編集代金の負担」という部分が怪しさ満載でどう見ても騙す気満々なのですぐにゴミ箱行きのメールですが、出版によるブランディングに目がくらむとこんなおかしい話にも応じてしまう可能性があります。

こんな出版社だけ儲かるズルい出版方法、詐欺すれすれであり、これを平然とやってのける会社は怪しいとしか思えません。

通常、出版代金は全て出版社持ちです。
編集代金を著者が負担するということは、「自費出版」とほぼ変わりません。
印税は10%であることを考えると、50万もの金額を回収しようと思ったら何千冊売らなければいけないか。
自費出版と言わず言い方を変えているだけです。

「リスクゼロの出版」ではなく、
出版社にとってリスクゼロの出版」なのでとんでもないことです。

それでも、「取材」とか「会議」「執筆」なんて言葉を使われると、「才能が認められた」と勘違いをする人が出てきてしまいます。

テキトーにネット検索して目についたブロガー全員に送って50万円ぼったくろうとしているだけの詐欺でも、100人に送れば一人くらい引っかかってくれる人がいるかもしれません。メールを送る料金はただであることを考えると、超高収益の事業です。
出版不況のこの時代にメチャクチャ儲かります。

せこいビジネスだなーと思うと同時に、人の心を亡くしたらこういうビジネスやるのもありだなと思います。
(もちろん私は絶対にやりません)
切羽詰まった人がこういうビジネスをして夢を売るのもあり得ると思います。
ただしお勧めはしませんし人に胸を張って言えるビジネスじゃないのでとっても恥ずかしいですね。

振り込め詐欺と同じで「自分は大丈夫」と思っていても当事者になると引っかかってしまうかもしれません。
最近の詐欺は巧妙ですから。

公的機関の名前を騙られると信じてしまいそうですが、罪が重くなるのでやめましょうね。

なお、今回話題にした「夢を売る商売」についてですが、フィクション作家の百田尚樹氏が『夢を売る男』という題名で出版業界で詐欺を働く男の話を書いています。

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この小説はフィクションですが、上述した「ブロガーに出版を持ちかける詐欺出版社」の話は本当ですのでご注意ください。