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最近はパソコンやスマホのアプリを使えば誰でも簡単に自分の創作した小説や漫画を全世界に公開することができます。
アマチュアの小説家が無料でも自分の小説を公開する理由は、「たくさんの人に読んでもらいたい。感想をもらいたい」に尽きると思います。
実際に一度でも感想をもらったアマチュア作家はその快感が忘れられなくて、オンラインで小説を発表することにのめりこんでしまうことでしょう。
しかし、良質の作品を発表するとファンがつくと同時にある危険にさらされます。
それは、「盗作」される危険性があるということです。
オンラインで無料で発表されている小説は誰でも閲覧できます。
すると純粋に面白い小説が読みたい人だけではなく、ネタに困ったプロ小説家や作家志望のアマチュアがネタを求めてあなたの小説を読みに来る可能性があります。
そして、実際にネタが盗まれてしまうこともあるでしょう。
このような場合、盗作されてしまった人はどうすればよいのでしょうか。
あるところにAさんという女性がいました。彼女は日本で一番大きい小説の投稿サイトに小説を発表していました。
ある日Aさんは、自分の作品にそっくりな小説が同じサイトに発表されていることに気づきました。
人物名などは変えてありますが、設定から描写までそっくりです。
Aさんは、これは著作権侵害だ!と思い、サイトの運営者に連絡してみました。
しかし、運営者から返ってきた返事は、「具体的な表現が同じでなければ著作権侵害とはいえません」でした。
明らかに「パクられて」いるのに・・・。
困ったAさんは私に助言を求めてきました。
私は、Aさんの話を聞いたうえでこう返答しました「残念ながら複製権の侵害として著作権侵害の責めを負わせることはできません。しかし、まだ打つ手はあります。」
まず、なぜ著作権侵害でないのか理由を述べると、著作物とは「 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であり、具体的な表現を変えてしまうと著作権の侵害とはならないからです。
しかし、著作権法には「同一性保持権」と「翻案権」という権利等もあります。
複製権の侵害にはならなくてもこれらの権利の侵害と認められれば著作権侵害が成立します。
まず、同一性保持権(著作権法20条)についてですが、これは著作者人格権の一つであり、教育の場での使用等例外的な場合を除き、創作の内容を勝手に変えられないという権利です。
たとえば、ハッピーエンドで終わる小説を後味の悪い終わり方に書き換えてしまう場合などがあげられます。
次に翻案権(著作権法27条)についてですが、翻案とは、小説を漫画にする等、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」をいいます(最高裁判決平成13年6月28日)。
翻案に当たるというためには、基本となるストーリーの展開、背景、環境の設定、人物の個性などの要素が同じであり、かつ、既存の著作物に依拠して作成されていればいいといえます。
しかし、単にアイデア、思想、構想、感情、イメージなどの抽象的な観念が同じものを作成したからといって、翻案権を侵害したことにはなりません。
さて、Aさんの小説が他者によって盗作された場合、上記の同一性保持権か翻案権の侵害を主張できる可能性があります。しかし、現実にはこれは非常に難しいでしょう。
なぜなら一歩間違えれば、アイデアを著作権法で保護することになりかねず、著作権法の域を逸脱してしまう可能性もあり、下手にアイデアを保護してしまうと法目的(著作権法1条)を阻害することになってしまうからです。
たとえば、「世界中に散らばった宝玉を7つ集めれば神様を呼び出して願いをかなえてもらえる」というアイデアについてドラゴンボールの作者に著作権が付与されてしまうと、同じアイデアで誰も別の創作をすることができなくなってしまいます。
もっと酷い例でいうと、人物の設定で「主人公は普段はごく普通の少年だが、自分の大切なもののことになると周りが見えなくなるほど没頭してしまう純粋で情熱的な熱血漢」
という抽象的なアイデアに著作権が与えられてしまうと、このような少年の出てくる創作をすることができなくなってしまいます。
こんな少年は創作の中にはいくらでもいます。特に少年漫画の主人公はこのタイプで読者の共感を呼ぶ人物であることが多いでしょう。
最近の作品でいうと、キングダムの主人公シンや進撃の巨人の主人公エレンなどです。
では、小説を発表している人で自己の作品が盗作されてしまった人は、泣き寝入りするしかないのでしょうか。
それもまた、酷いでしょう。
ですから、採りうる手段としては、裁判に訴えるという方法もありますが、時間的・金銭的労力を考えるととてもお勧めできるものではありません。
小説を発表している人の大半はまだ若く、金銭的にも苦しい人が多いでしょうから。
資金に余裕があり、プライドのかかわる会社なら裁判を起こしても良いと思いますが個人が微々たる損害賠償金や差止を求めて弁護士に高いお金を払うのもどうかと思います。
そもそも、このように盗作されてしまった場合に弁護士や弁理士にお金を払って相談するのもキツイだろうと思っているので私はサイトを作成して自己解決を図れるようにしているのです。
というわけで、盗作されてしまった人の気持ちになると本当に心苦しいのですが、現在の日本の著作権法には限界がありますから裁判に訴えるという方法は良策ではありません。
私が言える最良の方法は、「悔しさをばねにして、より優れた創作をする」です。
何をきれいごとを・・・と思われるかもしれませんが、現状ではそれが一番です。
「神は細部に宿る」と言いますが、実際に優れた書き手の文章は細かで具体的な表現に現れています。
それを自分のものとするために、作家志望の人は好きな作家の文章をそのまま模写するということもよく行われていますが、たくさんの優れた先人たちの創作を模写していけばいずれ自分のなかでそれが熟成して自分もオリジナルの優れた創作をできるようになるはずです。
また、「具体的な表現を真似しない限り著作権侵害ではない」ということを逆手にとって、
「アイデアは盗んでも表現は盗まないようにする」こともできます。
たとえば、同じ小説投稿サイトになかなかのレベルの小説が発表されていた場合に、「私ならここをこう変えてもっと面白くできる!」と思ったらそうしてしまえばいいのです。
そういうことをすると、アイデアを盗まれた作家さんからいちゃもんを付けられる可能性がありますが、その場合には素直にアイデアを使わせてもらったことを伝えればよいのではないでしょうか。
何も違法なことはしていないのですから。
盗まれて一流。盗まれないような作品に価値はないとする考え方もあります(著作権法だけでなく特許法でも同じ。
特許の場合は特許権さえもっていれば余裕で損害賠償できますが)。
私としては、小説投稿サイトなどで、小説を発表する人が自主的に
「Aさんの作品に刺激されて創作しました」 とか
「Aさんの小説は面白い。でも、私だったらこんな風にしてもっと面白くできると思ってこの作品を書いた」
というように発言していけばいいのではないかなと思います。
またはそういうことを表明するマークを付与するとか。これは小説投稿サイト側でやってくれるとよいのですが。コモンズライセンスみたいなものを。
他者から「あなたの作品にインスパイアされた」なんて言われたらアイデアを盗まれた方としても悪い気はしないし、負けていられない。私も頑張るぞ!と思えるでしょう。
この考えはオマージュに近いのではないかなと思います。
(ちなみにオマージュとパクリの違いなどについては過去記事を参照してください)
なんだか釈然としない結論かもしれませんが、最後に身を守る方法としてお勧めの方法をあげておきます。
①公証人に依頼する
公証役場で著作権を創作した日を確認するために確定証書のようなものを作ってもらいます(有料)。
後日著作権侵害だと警告されたときに自分の方が先に創作していたことの証明になります。
②電子署名を利用する
特許庁で特許についてならこのような制度があるのですが・・・。
そのうちオンラインで格安でこういうことができる可能性があります。
できるようになったら後日記事に追加します。
文化庁がやってくれないかな。
ちなみに、行政書士の中には「著作権の存在事実証明書」の発行を請け負っている人もいますが、こういったものにどれほど効果があるのかは未知数ですので(というかほぼ無意味)高いお金を払ってこんなものを依頼しないように気を付けてください。
良識ある行政書士ならちゃんと「著作権の存在事実証明にはそれほど法的効果はないのでお勧めしませんが」といってくれるはずです。
同じように著作権の登録もあまり意味がないでしょう。気休めにはなるのでやってみるのも悪くはないと思います。簡単ですし、文化庁のサイトを見ながらご自分でやってみてください。
行政書士に依頼すると高いのでプロで忙しい人以外は止めておいたほうが良いでしょう。
③①や②の方法を採ったうえで、侵害者に警告書を送る
④小説投稿サイト運営者に連絡する
デッドコピーでない限りあまり有効な手段ではありませんが、もしかしたら相手側が投稿を削除してくれるかもしれません。
⑤ネット上の情報を鵜吞みにしない
専門家ではない人がアフィリエイト目的でネットサーフィンなどをして聞きかじったことを書いているブログやサイトがありますが、百害あって一利なしです。気を付けてください。
ブログやサイトの運営者のプロフィールなどを見て信頼できる人かどうか判断しましょう。
(まあ、私もふざけた記事ばかりで怪しいと言えば怪しい人なのですが弁理士資格は持っていますし、嘘の情報を書いたりはしていません。)
ちなみに著作権のプロといえる資格は弁護士または弁理士です。大学教授の発言なども信頼できるでしょう。
以上、小説を盗作されてしまった場合に採りうる手段をあげてみました。
アマチュアの世界では、お金よりもプライドのような気持ちの問題が大きいと思います。
その気持ちを傷つけないように作家同士が節度を持って創作を楽しめると良いですね。
なお、悪質な模倣の場合や盗作者が被害者の名誉を傷つけるような発言をした場合は、著作権法ではなく別の法律で責任を負わせることはできます。
日本は訴訟社会ではないのでこんな場合でもなるべく訴訟にしたくないでしょうが、場合によっては社会全体を良くするために集団訴訟だとかいろいろな手段を採るとよいのかもしれませんね。
とりあえず私は創作をする人が楽しく創作できることを願って、少しでも生きやすい社会になるように期待を込めて記事を書く次第です。