『うちで踊ろう』とパロディと著作権

星野源さんの『うちで踊ろう』とコラボ(?)した内閣総理大臣安倍晋三氏の公式ツイートが批判されています。

元々自民党が嫌いで批判している人もいれば、総理が家で優雅に過ごしている姿を見て批判している人たちもいます。

一方、アーティストや知財系の人たちの人にとっては、「動画と音楽の”目的外使用”」が気になるところでしょう。

私自身はどうしても知財面から物事を見てしまいます。またアートを自分で創作することはありませんが、文章で表現はしていますので創作者の気持ちもわかります。

そんなわけで、今回は知財面と創作という観点からこの騒動について考えてみたいと思います。

 

まず、この”目的外使用”について述べる前に、著作権の基本として、「クリエイターが作った創作物には創作と同時に著作権が発生する。曲の演奏をしたり歌を歌う人には著作隣接権が発生する」ということを述べておきたいと思います。

そのため、創作者以外の人が勝手に創作物を利用(そのままリツイートするのではなく、自分のアカウントで動画等を公開したり改変利用)することは原則として著作権の侵害となります。

例外的に、著作権者が最初から誰でも自由利用OKと言っていた場合などには著作権の侵害とはなりません。
たとえば、いらすとやさんのイラストは自由利用OKなので、一定の数までは誰でも自由に使うことが出来ます。

今回の星野源さんの歌も、ご本人が「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」とおっしゃられているように他のアーティストとのコラボを望んでいらっしゃいます。

ここで注意しなければならないのは、星野源さんが公式に表明しているように「星野源さん自身はアーティストとのコラボを望んでいたのであり、政治利用など目的外利用されることを望んでいたわけではない」という点です。

 

昔から人の心を揺さぶることのできる音楽は政治的に利用されてきました。そして、体制を批判するロックミュージックという分野も生まれました。
kraftwerkのようにナチズムを彷彿とさせながらも東側を思わせるというそのグループ自体が政治的メッセージを強く有している音楽グループもあります。

このように、音楽と政治は切っても切り離せないものですが、そうであるからこそ、アーティスト側は自分が意図していない使われ方をすることを嫌います。
人気アーティストである星野源さんの曲は老若男女誰にでも受け入れられやすい曲であるだけに政治家はぜひ利用したいと考えるでしょうが、無断で使われるアーティストとしてはたまったものではありません。

その政党の支持者からは人気が出るでしょうが、その政党を支持していない人たちからは「敵」と認識されてしまうからです。

たとえば、2019年に自民党が#2019自民党プロジェクトが立ち上げました。
公式サイトでは人気イラストレーターの天野喜孝氏を起用し、総理大臣がイケメンに描かれています。

これを見て自民党に憧れる人もいれば、「天野喜孝という人は自民党支持者なのか」と考えたり「天野喜孝氏はお金のためならどんな仕事でも受けるのだな」と考える人もいます。

純粋なアート作品として評価されるわけではなく、政治的なメッセージとしてその作品が評価されるために、アーティストにとってはクライアントが政治家である場合には非常に仕事がやりにくいでしょう。

したがって、星野源さんも、安倍総理にコラボしてもらえたと喜ばずに「安倍晋三さんが上げられた“うちで踊ろう”の動画ですが、これまで様々な動画をアップして下さっている沢山のみなさまと同じ様に、僕自身にも所属事務所にも、事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません。」と自民党との関係性を完全に否定しています。

今回安倍総理がしたことは、一般人やアーティストたちのコラボとは異なり、「星野源さん人気に便乗」という政治的意図が見えたためにアーティストたちに不快な思いをさせてしまいました。

アーティストの気持ちに寄り添わないやり方はそのメッセージが素晴らしいものであっても批判の対象になってしまうので非常に勿体無いといえます。

 

なお、総理のツイートを見た芸人たちが風刺的なパロディ作品を創っていますね。

https://twitter.com/tamukenchaaaaa/status/1249558985063010304?s=20

著作権法的に考えたら星野源さんと安倍総理の動画のこういった使い方は好ましくないですが、そもそもパロディとは政治を風刺するために生まれたものなので、著作権法を盾にしてパロディを禁止する局面では無いと思います。

こうした政治を風刺する芸人さんたちの作品は諸外国でいうフェアユースに該当するので、ぜひどんどんやってほしいと思います。批判の声もあるでしょうが、もしかしたらそこから日本版フェアユースの導入に繋がるかもしれませんし。

笑いで暗い雰囲気を吹き飛ばしてほしいです。

参考過去記事:Twitterにおけるパロディ