特許法・意匠法改正法律案(平成31年3月)について思うこと

3月1日に、「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、現在開会中の第198回国会(通常国会)に提出されることになりました。

 

律案の趣旨は、中小・ベンチャー企業等が優れた技術を活かして飛躍するチャンスが拡大するため、紛争が起きても、大切な技術等を十分に守れるよう、産業財産権に関する訴訟制度を改善するとともに、デジタル技術を活用したデザインの保護や、ブランド構築等のため、意匠制度等を強化・・・ということになっています。

 

詳しくは特許庁の資料をご覧になってください。
特許法等の一部を改正する法律案

 

この改正案に関しては、時代の要請に応じた良い改正だと思います。

特に、意匠法の思い切った改正は素晴らしいと思います。

意匠法の改正

 

念のため意匠法の改正についてざっと説明しておくと、意匠法の一部改正については以下のようになっています。

(1)物品に記録・表示されていない画像や、建築物の外観・内装のデザインも新たに意匠法の保護対象となる。

(2)関連意匠制度を見直し、関連意匠にのみ類似する意匠の登録も認められる。

(3)意匠権の存続期間が「登録日から20年」から「出願日から25年」と長くなる。

(4)「一意匠一出願」⇒ 複数の意匠の一括出願&物品の区分の廃止。

(5)間接侵害規定の拡充

たとえば、侵害品を構成部品に分割して製造・輸入等する行為も取り締まることができるようになる。

 

どれも納得しやすい”改良”なので、過去の条文を暗記してしまっていた人でも知識のアップデートは容易だと思いました。

 

ただ、弁理士試験受験生は、写経のように覚えていた条文が変わってしまうことはしんどいと思います・・・。
だから、今年受かっちゃってください!

で、新しい関連意匠制度については合格後に改めて勉強してください。

すごく良い改正だし理解が容易なので、再度勉強するのは辛くないと思います。
(今年不合格で、来年新しい条文を勉強し直すのは精神的にきついけど・・・)

 

弁理士試験に合格した後に改正法を勉強すると、「今まで知っていた制度と違う」ことに戸惑い、なかなか頭に入ってきませんが、今回の意匠法改正はどれも「こうだったらいいのに」という願望が可視化されたような感じで、非常に納得がいきました。

特許法の改正

さて、次は特許法の改正についての話をしたいと思います。

意匠法と同じで良い改正だとは思いますが、個人的には、ちょっと弱すぎる改正かなと思います。

 

米国や中国並の賠償請求制度を導入しても良かったのではと思いました。

 

そうしたら、”日本抜き特許”の存在が減る=”日本国内の特許登録数も増える”はずです。

 

現在は技術分野や会社の方針にもよりますが、実務上日本国内で特許出願はしても審査請求をしない特許の数が諸外国に比べ多いように思えます。

 

つまり、日本の出願は優先権主張の基礎とするだけで、アメリカや中国など海外での特許権の取得をするためだけに利用し、日本で審査請求はしないので日本で特許権は成立しません。

 

なぜ日本で審査請求しないかというと、どうせ日本で特許権を得ても、活用できないので意味が無いと諦めているからです。

 

日本で取れる損害賠償額はたかが知れているので、日本国内にライバルが少ない企業は、日本国内での侵害については損害賠償請求を考えていない気がします。

 

もちろん同業他社が国内に多い企業は日本国内でも特許化及び権利行使をしますが、苦労をして勝利を勝ち取っても得られるものが少ないので、積極的な権利行使のために特許権を活用しようと考えず、戦いの舞台を海外に移している企業が多いように感じるのです。

 

こんな人たちが日本でも審査請求をしてくれるようになるには、やはり裁判の場において多くの損害賠償額を勝ち取れる制度が必要なのでは、と思いました。

 

なお、上に書いたことは私がぼへ~っと考えたことです。各企業は特許戦略上、もっと違うことを考えているのかもしれません。

国内にライバルがいる中小企業だったら、まず国内特許出願を考えるのが当然ですしね。

あくまでも、ブルーオーシャンを泳いでいるニッチトップ企業とか大企業のある分野についてのお話です。

 

特許法の査証制度

そうそう、1月の時点で既に書いていますが、査証制度についても私は懐疑的です。

 

・そもそも査証を行えるほど優秀な人材はどれだけいるのか。

・いたとしても、同業他社ばかりで中立な立場の存在である人を見つけることが困難なのでは。

・さらに、後のトラブルを考えて査証を引き受けてくれないのでは。

 

などなど問題点が考えられるからです。

 

でも、特許法には既に裁定制度のようにあまり使われない制度があるし、「存在することに意義がある」のかな・・・。
 

なお、今回導入されることになる査証制度は、2008年に規定されたドイツの査察制度(ドイツ特許法140c条)を元にしているのですが、どうして「査察」を「査証」に変えてしまったのでしょうね。
称呼が詐称と同じなので変な感じですw

ドイツにおける査察制度についての参考資料:特許侵害訴訟における査察制度導入の検討