正当権限に基づかない通報の責任【自己の知的財産権は有効か?】

ユーチューブに公開した動画が著作権を侵害しているとの申し立てが原因で動画が削除され、精神的苦痛を受けたとして、富山市の女性が、申し立てをした京都市の女性ら2人に損害賠償を求めた訴訟の判決で、京都地裁は慰謝料と広告収入の損害など計約7万円の支払いを命じました。

この文章を読んでも分かりにくいので説明すると、原告も被告も編み物作りの方法を解説する動画を投稿していたユーチューバーなんですね。
で、被告は著作権を侵害しない(編み方は著作物にあたらない)可能性があることを知りながら「あえて著作権を侵害されたと」の通知を行ったわけです。
ライバルに対する嫌がらせみたいなものでしょうね。

これにより動画はYoutubeにより削除されてしまったわけですが、「著作権侵害の成否に問題があると認識しながら、独自の見解に基づいて、あえて通知を行った」という被告側の過失を認めたのが今回の顛末です。

きちんと調べずに通知する行為が違法と判断された点は社会的意義が大きいでしょう(損害賠償額はかなり低いですが)。

さて、本題はここからです。
実は、このような「正当な知的財産権に基づかず、わざと知らないふりをしたり勘違いで権利を振りかざす行為」はネット上で散見されます。
私もよく相談を受けます。
たとえば、「私は実用新案権を持っているからこの〇〇を独占的に作ることができるのは私だけです」とホームページに書いていたり、「○○という商標を取ったので○○という言葉を使わないでください」などです。

実用新案権や商標権の登録を受けるだけなら簡単なんです。誰でも出来ます。難しいのは、「攻撃や防御の手段として役立つ知的財産権をとれるか」という点です。

実用新案権なんて特にハッタリの意味合いで取る人が多いと言えます。個人のクライアントが「どうしても真似されたくないんです!私の発明は世界初です!」と鼻息荒く弁理士に相談してきたら、弁理士は「ではとりあえず実用新案をとっておきましょうか」とすることもよくあります。

でも、無審査で登録される実用新案権は技術評価書を受けない限り警告することは許されません。

自分が正当権限を持っているかどうかもあやふやなのに無闇矢鱈に周りを脅してはいけないんですよ。
ついつい強い言葉を使ってライバルに警告したくなる気持ちもわかりますが、脅迫であるとして逆に提訴されるかもしれません(そして上述の事例のように損害賠償する羽目になるかも)。

知的財産権を有している自分は正義であると思い込まずに必ず弁理士等専門家の意見を仰いでください。

むちゃくちゃな主張をする人って、きちんと弁理士に意見を聞いていません。「商標は言葉を守る権利」「実用新案登録をした場合、真似をした人にはSNSで警告することが許される」という間違った独自理論を信じ込み、ありえない傍若無人ぶりを発揮しています。

そもそも商標を取得するのに弁理士に相談せず自分で出願している人もいますし。

参考記事:商標出願をする際の弁理士・特許事務所の選び方

酷い場合には、弁理士に依頼しているのに依頼を受けた弁理士がきちんと仕事をせず無意味な分野で商標登録を取ってしまうことがあります。
(さすがにこのケースでは商標権者が自己の商標権に基づいて警告を行い相手方に不利益を与えた場合には、代理人弁理士に過失があるとしてほしいです。)

 

というわけで、正当権限に基づかず嫌がらせ的な警告をした場合にはペナルティがあると考え、現在ホームページやSNSで「真似するな!」と書いている人は、もう少し表現をマイルドにしたり弁理士に相談してください。