*この記事は旧ブログ「問題解決中」の記事と同じです。実際に描かれたのは2年ほど前です。リンクを下さっていた方はこのブログのアドレスに設定し直してくださると助かります。

 

先月発売されたCD「森のくまさん パーマ大佐」が、「森のくまさん」の作詞者であるとする馬場祥弘氏から著作権侵害を理由に販売中止に追い込まれそうになっています。

 

もうちょっと詳しく説明すると、この「森のくまさん パーマ大佐」というのは、太田プロダクション所属の芸人、パーマ大佐が、有名な童謡「森のくまさん」の歌詞をアレンジして元の歌詞とは違うストーリーにしたところ、「森のくまさん」の作詞者であるとする馬場祥弘氏が自身の著作者人格権の侵害であることを理由にCD販売の中止などを求めてきたという事案です。

 

細かい経緯はわからないので、法律的な部分だけを説明したいと思います。

 

まず、馬場氏の著作物に関してですが、「森のくまさん」はもともとはアメリカの民謡です。作詞者・作曲者共に不明です。著作権も切れてパブリックドメインになっています。
馬場氏はこのパブリックドメインとなった曲の英語の部分を日本語に翻訳しました。ですので、馬場氏による作詞は「二次的著作物」です。

 

イメージとしては、純粋な創作物である一次的著作物があって、そこに改変を加えたものが二次的著作物といっていいかと思います。

馬場氏がCDの販売差し止めをする根拠とは、著作者人格権のうちの「同一性保持権」です。

これは、作詞者の意に反して詞を勝手に改変されないという権利です。たとえ馬場氏が詞の管理をJASRACに委託していたとしても、人格権の管理までは委託できず、「森のくまさん」を改変利用したい人は馬場氏に許諾を得る必要があります。

許諾を得ずに勝手に替え歌を創れば、同一性保持権の侵害となり、著作者である馬場氏は同一性保持権を侵害したパーマ大佐に対し、差し止めや損害賠償を請求することができます。

 

もし馬場氏が「No」と言えばそれまでで、「森のくまさん」の替え歌は日の目を見ることができません。ですから、どうしても替え歌を発表したい場合は、許諾を得ずに発表し、事後的に許諾をもらうとか「使用料」という名目で損害賠償金のようなものを支払うことになるでしょう。

 

裁定のような制度があればよいのですが・・・。

 

ところで、そもそも「森のくまさん パーマ大佐」という曲はどのようなものだろうと思い、youtubeで見てみました。

そして、ユーチューブのコメント欄を見て、ショックを受けました。それは、「日本では全然著作権教育が行き届いていない」ということ。

 

皆、一様に馬場氏を罵倒しています。

 

上述したように、そもそも「森のくまさん」はアメリカの民謡であり、著作権は切れてパブリックドメインになっています。馬場氏はその著作権の切れた曲の作詞の部分の翻訳をしただけの人。
一般に尊敬されている「オリジナルの創作物を作った著作者」とは違います。

 

ですから、著作権者であるとして権利を主張するのはおかしいと思っても無理はないかもしれません。

 

しかし、日本では「優れた著作物」に著作権が与えられるわけではなく「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」に著作権が認められるのですから、翻訳だけとはいえ、著作権は存在しています。

 

また、私福田の個人的見解ですが、その翻訳の出来の良さは称賛に値します。

 

すたこらさっさっさのサー ←この訳、素晴らしいと思います。なかなか思いつきませんから。

 

この日本語訳のコミカルさ、ストーリー性により、ただの童謡が替え歌を創りたくなるほど魅力的になっていると思います。

ですから、馬場氏が著作権者であると主張する行為を責めるのは不合理だと思います。

 

というか、コメント欄でコメントしている人たちはあまりにも辛辣な表現を用いていて、馬場氏の名誉を棄損していそうです・・・。

確かに「強欲」に見えるのかもしれませんが、著作権者として当然認められた権利ですし、そのような正当な行為を法律ではなく、感情論で罵倒するのはどうかと思うのです。

 

現在、日本では文化庁なども苦労して、義務教育の段階から著作権の啓蒙活動に努めていますが、既に義務教育を修了した人たちにとっては著作権法に触れる機会がなかったのですから、法に基づいて、ではなく、感情に基づいて法を議論してしまうのは仕方がないと思います。

 

私も弁理士試験の科目でなかったら絶対にきちんと学ぼうなんて思わなかったはずです(受験生時代、著作権法なんて複雑だから大嫌いだったし)。

 

ただ、日本には著作権法というものが成立しているのだから、「悪法だ」という理由で従わないわけにはいきません。悪い部分があるのなら直し、それに従うしかありません。

 

日々インターネットを使う我々にとっては、著作権法は無視できない存在です。

 

youtubeのコメント欄に「こんなやつに著作権を与えたジャスラックはおかしい」と書いてありましたが、著作権はジャスラックが著作者に与えるものではありませんし、二次的著作物の著作者にもきちんと著作権は認められています。

 

このような著作権法の基礎を知ったうえで、ネット上で議論を繰り広げることができるようになってほしいと思います。

匿名で見ず知らずの人を誹謗中傷するのは著作権を悪用するよりも許されない行為だと思います。

 

現状の著作権法には様々な課題があります。
特に著作者人格権に関しては、明らかに不合理と思われる部分が存在します。

 

我々一人一人が道徳的観点からその不合理さを理解し、改正を促さなければいけないと思います。