「美肌ローラ」事件 について弁理士試験風に解説

本日は、美肌ローラ事件についてお話したいと思います。
この事件の概要をつらつらと語ってもなかなか頭に入ってこないでしょうから弁理士試験論文式試験風の文章を用いながらご説明いたします。
(それでもわかりづらいとは思うけど、一番したに判決文へのリンク貼ってあるからそれも読んで理解してください!一応分かり易く書いたつもりです)
 

【特許法 問題】

甲は美肌ローラに関する特許権者である。乙は甲の特許発明の技術的範囲に属する美肌ローラを実施している。甲は乙に対し、特許権侵害による損害賠償請求訴訟を提起した。そこで乙は甲の特許に対し進歩性違反を理由として特許無効審判を請求した。
一方、甲の提起した侵害訴訟において甲の特許権は進歩性違反による無効理由を有するとして裁判所は甲の請求を棄却した(なお、裁判所においては特許無効審判請求と同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由によって、本件特許は無効にされるべきものと判断された)。
そこで甲は原判決を不服として控訴した。
以上を前提に、以下の設問に答えよ。

乙は無効審判を請求しているが、請求不成立とする審決を受けた。乙は当該審決に対し審決取消訴訟を定期せず、当該審決が確定した。
この場合において乙は控訴審において、特許無効審判請求と同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を特許無効の抗弁として主張することは出来るか。
理由を趣旨と共に述べよ。

 

 

【解答例】
結論: 乙は控訴審において、特許無効審判請求と同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を特許無効の抗弁として主張することは出来ない。

理由: 特許法167条の「一事不再理効」の趣旨は、無効審判請求手続きの内部においてのみ適用されるものではない。すなわち、侵害訴訟手続きにおいても適用されるとして、被控訴人が侵害訴訟の控訴審において特許無効審判請求と同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を特許無効の抗弁として主張することは、訴訟上の信義則に反するとして認められない。                                       以上

 

【解説】
乙は、控訴審において以下のように主張しています。この主張もあながち的外れではありませんし、だからこそ審決取消訴訟を提起しなかったのではないかなと思います。

『本件審決の確定により被控訴人が改めて無効理由1に基づく無効審判請求をすることはできないとしても、被控訴人以外の第三者は無効理由1による無効審判請求をすることが可能である。
そして、このような場合も「当該特許が特許無効審判により〜無効にされるべきものと認められるとき」(特許法104条の3第1項)に当たると解すべきであるから、被控訴人が無効理由1を主張することは許される。
特許法104条の3第1項の適用がないとしても、本件特許は無効理由1により無効にされるべきものであるから、本件特許権の行使は、無効な特許を実施する者に不当な不利益を与えるもので衡平の理念に反する。いわゆるキルビー判決は、特許権を対世的に無効にする手続から当事者を解放した上で衡平の理念を実現するというものであり、その理念は本件にも妥当するから、控訴人が被控訴人に対し、本件特許権を行使することは権利の濫用として許されない。』

乙のこの主張に対し、裁判所は以下のように判断しています。

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『本件審決は確定したから、被控訴人は無効理由1に基づいて本件特許の特許無効審判を請求することができない(特許法167条)。
特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は、同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ、その趣旨は、無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものではない。そうすると、侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い、審決取消訴訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には、同一当事者間の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは、特段の事情がない限り、訴訟上の信義則に反するものであり、民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。
そして、本件において上記特段の事情があることはうかがわれないから、被控訴人が本件訴訟において特許無効の抗弁として無効理由1を主張することは許されない。』

『被控訴人は、特許法104条の3第1項の適用がないとしても、本件特許は無効理由1により無効にされるべきものであるから、本件特許権の行使は衡平の理念に反するし、いわゆるキルビー判決は、特許権を対世的に無効にする手続から当事者を解放した上で衡平の理念を実現するというものであるから、控訴人が被控訴人に対し、本件特許権を行使することは権利の濫用として許されないと主張する。
しかし、被控訴人は、本件訴訟と同一の当事者間において特許権を対世的に無効にすべく無効理由1に基づく無効審判請求を行い、それに対する判断としての本件審決が当事者間で確定し、無効理由1に基づいて特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁を主張することが許されないのであるから、本件において、控訴人が被控訴人に対して本件特許権を行使することが衡平の理念に反するとはいえず、権利の濫用であると解する余地はない。』

特許庁と原審の判断の違いは、特段の事情には当たらないようです。

特許法第167条は、平成23年に「何人も」の文言が削除される改正がされるまでは、「当事者及び参加人」だけでなく、対世効がありました。

しかし、法改正により特許法167条の効力は当事者間だけに限定されました。すなわち本問で言えば、乙が特許無効審判を請求し、不成立審決がなされたとしても「当事者及び参加人」以外の丙であれば、「同一の事実及び同一の証拠」に基づいて、改めて特許無効審判を請求することができるのです。

こうしたことを考えると知財高裁における、特許法第167条の解釈については妥当なのかなと思います。

 

この判決が出た以上、実務では、特許無効審判を請求し請求不成立とする審決がなされた場合、侵害訴訟の進行状況によっては審決取消訴訟を提起することが必須と考えるべきです。

そして、弁理士試験においては、侵害訴訟と並行する特許無効審判で請求不成立審決を受けた請求人(被告)は審決取消訴訟を提起する必要があると答える必要があります。

 

最後に、この事件については甲さんがラッキーで乙さんがアンラッキーだなという印象は拭えません。特許の無効の判断を特許庁と裁判所という異なる機関で行うことが産んだ問題のようにも思え、乙さんが可哀想な気はします。

 

「美肌ローラ」事件(リンク先は裁判所ウェブサイト)
損害賠償請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成29年(ネ)第10086号 判決日:平成30年12月18日
判決:原判決取消
特許法条文167条、104条の3、民事訴訟法2条
キーワード:同一の事実及び同一の証拠、特許無効の抗弁、信義則、権利の濫用