企業知財部と特許事務所弁理士の関係&関係を良くする方法

以前無責任な企業知財部員の話という記事を書いたのですが、補足をしたいと思います(短いですので前提知識としてぜひ御覧ください)。
あくまでも私の意見ですので異論はあると思いますがご容赦ください。

・・・とその前に企業知財部と特許事務所の仕事や両者の関係をよく知らない方のために簡単な説明をしたいと思います。

企業知財部と特許事務所の仕事

企業知財部の仕事は、事業に貢献するための知財戦略の立案、及び知財戦略に沿った特許群の創出&活用です。

一方、特許事務所の仕事は、一つ一つの発明の価値を最大限に高めることです。

 

企業知財部と特許事務所の得意分野

企業知財部の得意分野は、事業戦略、知財戦略、特許群管理です。

特許事務所の得意分野は、1つ1つの発明のポテンシャルを引き出すこと及び深い法律や判例の知識、高品質の明細書作成です。

企業知財部と特許事務所ではそれぞれの仕事も得意分野も重なるところはありますが異なるので、協力することで大きな価値を生むことが可能になります。

 

企業知財部は、事業戦略及び知財戦略、特許群の考え方を特許事務所に伝え、それを共有した特許事務所は、1つ1つの発明を、事業戦略及び知財戦略に沿うように最大限ポテンシャルを引き出すことができれば、企業知財部は目的を達成できますし、特許事務所は企業知財部から大きな信頼を得ることができるのです。

しかし、現状は・・・

 

企業知財部と特許事務所の関係

企業知財部は特許事務所に発注するお客様です。お客様ですからどちらかというと立場が上です。
そして、企業知財部は特許事務所にうるさい注文を付けてきます。

・ちゃんとした明細書を作って
・いつまでにしろ(キツイ納期)
・うちの弁理士が出願するから下請けだけしてよ
・値下げしろ

上記の要求を飲まなかった場合、容赦なく仕事を切ることもあります。

したがって、特許事務所の弁理士にとって、企業知財部は憎たらしい存在であることも多いのです。

 

しかし、「そうか。企業知財部と特許事務所は憎み合っているのか」と考えるのは早計です。
良好な関係を築いている企業知財部と特許事務所も多いからです。

では、どうしたら良好な関係を築けるのでしょうか。

 

それは、特許事務所の弁理士に実力があった場合です。

企業知財部は鬼ではありません。イジメたくて特許事務所に無理を言っているわけではありません。
それが彼らの仕事だから注文を付けているだけです。

ということは、質の高い明細書を書いてくれる弁理士さんのことはリスペクトしてくれます。

先程、企業知財部のうるさい注文について箇条書きしましたが、企業知財部の立場になって言い換えると以下のようになります。

・何度も同じ間違えをしないでほしい。明細書の修正について一回指摘されたら学んでくれ。
・納期に間に合いそうじゃなかったら断ってくれていいよ。こちらも早めに対応出来るから。
・決まりがあるから仕様書通りに書いてくれないと困るんだ。
・たくさん発注するから代わりに値下げしてほしい。でも無理は言わないよ。

要するに、企業知財部が求める特許事務所とは、プロとしての仕事をちゃんとしてくれる、高い専門性を有している弁理士なのです。
性格なんてどうでもいい。実力が全てです。

実力がある弁理士のことは企業知財部員さんはめちゃくちゃリスペクトしてくれます。
過剰に仕事を振ることもしません。
値下げに関しては、知財部員がどうこうできることではないので(もっと上の人が決めます)仕方がありませんが・・・
発明のポテンシャルを引き出すのであれば、弁理士からの提案を喜んで聞いてくれます。

また、特許事務所の弁理士さんは細かな法律についても熟知しているので、企業知財部員は頼りにしているのです。(企業知財部員が弁理士だった場合には彼らも法律について詳しいのですが、企業知財部員は弁理士でないことも多いので、彼らは特許事務所の弁理士を頼りにしています)

数々の特許事務所を切ってきた鬼のような企業知財部員でも、実力ある弁理士には尊敬の念を持って接します。
普段鬼のような企業知財部員さんが実力ある特許事務所の弁理士さんを前にすると笑顔になってしまうのは爽快です。
そんなわけで、企業知財部と特許事務所は敵ではなくてパートナーなのです。

協力しないと良い特許は生まれません。
そして、良い特許とは、事業の役に立つものです。

 

どうすれば企業知財部員に気に入られるようになるか

どうすれば企業知財部員に気に入られるようになるかの答えは簡単です。
実力をつければいいだけです。

そして、この実力とは、特許法や判例に基づいて発明のポテンシャルを引き上げる&その発明を明細書に反映させる明細書作成能力です。

なんで受かった後にまで勉強を続けなければいけないんだ。
お金にもならないのに勉強を続けるなんて馬鹿らしい。

そんな考え方もあるかもしれませんが・・・逆です!

企業知財部から信頼されるための大前提として特許事務所の弁理士は法律を知っていなくてはいけないのです。

そして、深い条文知識を備え、かつ勉強を続けている弁理士は、企業知財部に対して適切なアドバイスをすることができます。
たとえば、今年の弁理士論文式試験特許法では分割についての知識が問われましたが、研修をサボり勉強を続けるのを止めた弁理士には正解を導き出すことが出来ない問題です。

昔は特許査定後の分割は認められておらず、後に法改正されて特許査定後の分割も認められるようにされましたが、知識をアップデートしていない弁理士には「えっと、確か法改正があったよな。特許査定後の分割も出来るようになったはず。じゃあ、答えは”可能”」と単純な答えを導き出してしまいます(冒頭で紹介したリンク先の知財部員の乙さんです)。

しかし、きちんと知識のアップデートを続けている弁理士には「44条ってかっこ書きがあるな」とすぐに気づけます。

逆に言うと、前置審査のときに分割をしておかないと特許を取れないということを特許事務所の弁理士が教えてあげることができないと、企業知財部に損害を与えてしまうのです。

そんなことは専門家として許されません。

 

というわけで、知財部員は実力ある弁理士が大好き(だから頼りにしてるよ。しゅきしゅき!)というお話でした。