商標権の効力が及ばない範囲についての歴代判例紹介【商標の使用と商標の機能】

今日は、商標権の効力が及ばない範囲(商標法第26条1項)について昭和・平成・令和の判例を採り上げながら考察したいと思います。

判例の蓄積により理由付けがより適切なものに変わってきています。重要部分だけを記載していますが、余力のある方はぜひ各種事件の判決文をお読みください。

では、まずは基礎中の基礎を念の為に復習しておきましょう。

商標の使用とは

商標権者は、指定商品・役務について登録商標を使用する権利を専有します(25条)。そのため、指定商品と同一の商品・役務について、登録商標と同一の商標を使用する行為は、当該登録商標に係る商標権を侵害します。
また、指定商品・役務と同一の商品・役務について登録商標と類似する商標を使用すること、及び指定商品・役務と類似する商品・役務について登録商標と同一又は類似する商標を使用する行為は、当該登録商標に係る商標権を侵害するものとみなされます(37条1号)。

「使用」(商標法2条3項)とは、たとえば商品又は商品の包装に付する行為(同条項1号)がこれに該当します。

そして、登録商標と同一又は類似の商標を指定商品又はこれと類似する商品又はその包装に表示すれば、商標権侵害が成立するのが原則です。

商標の機能とは

この原則を踏まえた上で今度は商標の機能について考えましょう。
商標の機能には、①自他商品・役務識別機能、②出所表示機能、③品質保証機能及び④広告機能の4つがあります。

商標の最も基本的な機能は、①自他商品・役務識別機能です。
商標は単なるデザインではなく出所を識別する目印なのです。商標法も商標のデザインそのものを保護しているわけではありません(商標法第1条)

ということは、仮に形式的には登録商標と同一又は類似の商標を法2条3項に定める定義に該当する形で「使用」していたとしても、それが商標の機能を果たさないような使用方法に過ぎないのであれば、商標権侵害とするのはおかしいと言えるでしょう。

そこで、商標権の効力が及ばない場合として、商標法26条1項6号が追加されました。

商標権の効力が及ばない場合(商標法26条)

需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(商標法第26条1項6号)

これはどのようなものを言うのかというと、
①標章が商品・役務の内容等を説明するための表示として付されている場合
②標章が商品・役務の装飾・意匠として付されている場合
③標章が専ら商品・役務の宣伝のためのキャッチフレーズや宣伝文句等として付されている場合
が考えられます。

①については『タカラ本みりん事件』や『巨峰事件』がすぐに思い浮かぶでしょう。
②については『ポパイアンダーシャツ事件』が、③は『オールウェイ事件』ですね。いずれも有名なので知らない人はぜひ学習しておいてください。今回は特に②について説明していきます。

商品の目立つ部分に装飾・意匠として付されている商標に関する判例

商標の使用と機能について頭に入れた上でいよいよ本題に入ります。
まずは、昭和の時代の事件、ポパイ・アンダーシャツ事件(大阪地判昭和51年2月24日)です。

被告はポパイの文字+図形の標章を付したアンダーシャツを販売していたところ、ポパイの文字+図形の商標を有する原告から訴訟を提起された事件です。判決では、被告標章がアンダーシャツの胸部中央のほぼ前面に大きく彩色した上で付されたものであることを理由として、需要者は、アンダーシャツの「面白い感じ」「楽しい感じ」「可愛い感じ」に惹かれて購入するのであって、出所識別表示とは認識しないとされました。

これは読み方によっては、標章が服飾品の前面や背面に大きく表示される場合は、商標的使用に該当しないと受け取られる虞れもあります。
この考え方は必ずしも適切ではないでしょう。

そこで、次に平成の事件、LOVEBERRY事件(東京地判平成18年12月22日)を見てみましょう。

この事案では、「Tシャツの胸元等に付されたものが単なる装飾的あるいは意匠的効果を有するか出所識別機能をも有するかは、当該標章の具体的使用態様に即して判断せざるを得ない」と述べ、被告標章が前面に付されたTシャツにつき商標的使用を肯定しました。類似事件としてルイ・ヴィトン事件などがあります。(ルイ・ヴィトンは事件数が多すぎるのでLOVEBERRY事件を例示しました)

もちろん、商標が著名であるが故にシャツの前面に伏しても商標的機能が発揮されたわけですので、登録商標をシャツに付したら即侵害というわけではありません。
コレに関しては比較的新しい判決として『Bello事件』(平成29年(ワ)第6906号)もご紹介したいと思います。https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/257/088257_hanrei.pdf

原告は、服飾雑貨を扱う個人事業を営んでおり、「BELLO」の文字又はその飾り文字からなっている商標権を有しています。
被告は、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(「USJ」)を運営する合同会社です。
被告は人気アニメ『ミニオンズ』のキャラクターとその挨拶に該当する言葉「Bello」(Helloを意味する)をTシャツやインナー等に付し、USJテーマパーク内及びテーマパークの近隣にある被告が運営する店舗並びに被告の運営するオンラインストアで販売していました。

このような状況下、原告は被告各商品の販売は原告の商標権を侵害すると主張し、その販売等の差止め、在庫の廃棄、損害賠償等を請求しました。

結論としてはここまで読み進められた方が容易に予想する通り、請求棄却(商標的使用ではない)です。

被告各標章が出所表示として機能していないから,被告各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品…であることを認識することができる態様により使用されていない」(商標法26条1項6号)と認められる。また,将来の被告各標章の使用についても,取引の実情の変化の有無やその態様が明らかではないから,将来における取引の実情の変化を前提とする判断をすることはできない。

妥当な結論だと思います。

ただ、商標権者もちょっと可哀想かなとも思います。
有名キャラクターのような著名表示と自己の登録商標とを併用された場合、当該著名表示にのみ出所識別機能が認められるとして、商標権侵害を否定されてしまうわけですから。

この意味でも、商標法は「業務上の信用」や「著名性」を重視しており、単純に「言葉」を守っているのではないということがわかります。

登録商標を長年使い続けて信頼を積み重ねることにより各種商標の機能を果たす強い商標権(ブランド)にするのが商標権者の理想です。
商標は登録した者ではなく、使い続けて有名にした人が偉いんですね。

そう考えると、商標の先取り出願とか駄目ですよねぇ・・・。