第三者による非純正品の販売と知的財産権の侵害

インクジェットプリンタのように本体は安めの価格設定にして消耗品で儲けるジレット式消耗品ビジネスは効果的なビジネスとして長年行われています。
しかし、消耗品は高額なので、自社と全く関係のない第三者が安めに値段設定をして消耗品を詰め替えて販売することがあります。
この点については特許権侵害訴訟で有名な判例(インクタンク事件)があります。

さて、純正品ではなく互換品の販売時には、たとえば「○○製品互換品(非純正品)」というように純正品ではない旨の打消表示をする場合があります。
この打消表示さえすれば他者の商標名を表示することが許されるのでしょうか。

今回は消耗品について、特許権の侵害ではなく、商標権侵害事件(不正競争防止法違反)について採り上げてみたいと思います。

商標権侵害訴訟では「商標の使用」についてしばしば問題となります。
たとえば「巨峰」事件や「タカラ本みりん」事件のように、「説明として使用されただけ」(商標法26条)として商標権侵害が否定された例があります。

では、ブランド名だけを表示するのではなく「需要者への呼びかけ」として文中に表示した場合はどうなるでしょうか。

これに関し、タカギ事件控訴審判決(平成30年(ネ)第10064号)を取り上げてみようと思います。

原告は浄水器とその交換用カートリッジ等の製造販売を行っています。被告は原告製品にのみ使用できる純正交換用ろ過カートリッジを販売していました。
そこで、原告が商標権侵害及び不正競争防止法違反に基づき、被告標章の使用差止めと損害賠償を求めた訴訟です。

原審では、「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」という記載中の「タカギ社製」については一連の呼びかけともいえる文言であると受け取れるものであるとして商品等表示の使用には当たらないとしました。
上記判決に対し、一審原告が控訴をしました。

控訴審では以下を理由として原審の判断は覆され、「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」という記載中の「タカギ社製」について、商品等表示の使用に当たるとされました。

①「タカギ社製」は、当該商品が原告の出所に係ることを示す語句である。
②被告標章を含む記載は「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」と3段に分けて記載されているものであって文章の内容だけからしても「タカギ社製」が「浄水蛇口」ではなく「交換用カートリッジ」を修飾していると理解することが可能。
③記載の上方及び下方の2か所に本件記載より明らかに大きなサイズの文字でより目立つように「交換用カートリッジ」「交換用カートリッジ ついに発売!!」などと表示され、かつ交換用のカートリッジそのものである被告商品の写真画像も併せて表示されているためそれらの表示に接した需要者は、冒頭に独立して記載された「タカギ社製」の文字をカートリッジに結びつけて理解しやすい。
④被告標章(タカギ社製)の要部であるタカギの文字部分が家庭用浄水器及びその関連商品の需要者の間で周知なものであること並びに需要者の注意力がそれほど高くないことといった事情も併せ考えると需要者が本件記載2の中で独立して最上段に記載されている「タカギ社製」が本件記載中の「交換用カートリッジ」を修飾する語句であると理解することは十分にあり得る。

また、需要者は打ち消し表示を見れば混同することはないという被告の主張に関しては、打ち消し表示の存在によって混同のおそれが生じなくなるものとはいえないと判断しました。

以上のように、本判決は「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」記載中の「タカギ社製」の表示が出所を示す語句であり、かつ、文字の大きさや配置などを考慮要素として、「タカギ社製」が「交換用カートリッジ」を修飾する語句であると需要者が理解することは十分にあり得るとして、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当すると判断しました。

さて、打消表示にはこのように純正品でないことを表示する場合もあれば、別途商標を付すといった場合も考えられます。
マリカー社の『任天堂とは無関係』商標出願なんて記憶に新しいところです。

なお、インクタンク事件に似た事件として薬剤分包用ロールペーパ事件知財高裁判決(平成31年(ネ)第10031号)があります。
これは特許権差止等請求控訴事件なのですが、商標についての判断も参考になります。

被告は、原告が販売した薬剤分包用ロールペーパの使用済みの芯管を回収し、これに薬剤分包紙を巻きなおして販売していました。純正の芯管に薬剤分包紙を巻きなおしたわけですから、芯管部分には刻印された商標が残っています。そこで、原告は、被告に対し商標権侵害に基づき差止及び損害賠償を求める訴訟を提起しました。

これに対し、被告は「非純正品であることを明示して販売していた」(上記の「打消表示」と同様ですね)ことや、「購入者がプロである調剤薬局であることから、誤認混同が生じず、出所表示機能や品質保証機能が害されていない」等と主張しました。

判決は、非純正品であることの表示が一部にあったとしても、すべての購入者が非純正品であることを正確に認識していたとは認められないと理由付けました。

このように見てくると、よくある「Apple純正品ではありません」という打消表示も問題がありそうですね。
ハンドメイド商品を作って「鬼滅の刃公式商品ではありません」とすることも商品等表示に該当しそうです。
どう考えても便乗商品を作っておきながら知的財産権の侵害の責を免れようとすることは公正な競業秩序を乱しますからね。

非純正品の製造販売に関しては、特許権だけでなく、商標権についても意識することが重要です。