上田育宏氏のベストライセンス社について書いた記事において上田育宏氏ご本人からコメントを頂いたので、その際に教えて頂いた同社のウェブサイトを見てみました。

http://bestlicense.qcweb.jp/proposal.html
かなりの分量があり、全てを読むだけでかなりの時間を費やしました。

 

しかし、非常に面白い内容だったので私の感想を述べたいと思います。

ただし、長すぎるので今回はPPAPの商標登録の部分に限定します。

 

なお、今回は一般の方向けの記事ではありますが、商標法を学習する人の役に立つように、一部に専門用語を使います。
読みにくいところはあるかもしれませんがご了承ください。

 

ベストライセンス社によるPPAP商標登録出願について

まず、日本商標法における先願主義等の登録要件についてですが、これは上田氏も述べている通り、原則は出願日が最先の出願人に商標権を付与することになっています。

 

例外として、使用意思がない場合、他人の未登録周知商標と同一・類似する場合、不正の目的を有している場合、出所混同を生じる場合、又は、公序良俗に反する場合、商標権は付与されず、拒絶査定がなされます。

 

では、この点を念頭に置いて上田氏の主張を見てみたいと思います。

 

(3)論点
➀日本において、「PPAP」が周知になっているか? 「PPAP」が周知になっているとした場合、周知になった年月日は具体的にいつか? 周知商標主は具体的に誰か? 具体的に、どの指定商品(指定役務)に関連して商標「PPAP」が周知となっているか?
②日本において、ベストライセンス株式会社の日本商標出願の出願日である平成28年10月5日に「PPAP」が周知になっているか?
③日本において、エイベックス株式会社の日本商標出願の出願日である平成28年10月14日に「PPAP」が周知になっているか?
(略)
(4)私見
①上記論点(3)①について
周知商標とは、何人かの業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標をいう(商4条1項10号)。商標「PPAP」は、ピコ太郎さんが、平成28年8月25日にユーチューブにおいて公開し、同年9月中旬に、ジャスティン・ビーバーが「お気に入り動画だ」と推薦したことで世界的な大ヒットになったようである。現時点(平成30年2月6日)で主にインターネット等の通信関連分野では周知になっているように感じられる。具体的に、周知になった年月日は、明確に特定はできないが、日本国内においては平成29年1月上旬から平成29年1月中旬までの間の年月日であるように思う。周知商標主はピコ太郎さんだと思う。主な理由は、次の3つ、即ち、条理上の理由、バッシングの発生に関する理由及びエイベックスの商標出願の審査経過に関する理由の3つの理由である。尚、日本商標法において他人の未登録周知商標と同一・類似するとの出願拒絶理由や登録無効理由を構成するためには、出願時と査定時の両方の時点において周知であることを要する。

(条理上の理由)

周知商標であるか否かは、事実問題であって法律問題ではない。平成28年8月25日に公開され、いわゆる公知になり、2カ月以内に周知になることは条理上考え難い。1人の有名アーティストがツイートしたからといって即、周知になるものでもない。1人の有名アーティストがツイートしたことが注目を浴びる発端になっただけであり、その後、注目されはじめて1、2カ月以内で周知になることは条理上考え難い。

まだ続きはありますが、長いので一旦ここでコメントをしたいと思います。
(以下、少しずつ引用していきます。また、引用文の中の太字は私(福田)による強調です。)

 

まず、論点➀日本において、「PPAP」が周知になっているか? 「PPAP」が周知になっているとした場合、周知になった年月日は具体的にいつか?についてですが、上田氏の私見によると、「現時点(平成30年2月6日)で主にインターネット等の通信関連分野では周知になっているように感じられる。具体的に、周知になった年月日は、明確に特定はできないが、日本国内においては平成29年1月上旬から平成29年1月中旬までの間の年月日であるように思う。」とされています。

 

ではこの主張に正当性はあるのでしょうか。

実際に周知になったのはいつかについて調べてみました。

 

各種新聞記事が証拠になりますが、wikipediaに時系列がわかりやすくまとまっていたので引用させていただきます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ペンパイナッポーアッポーペン

2016年
9月27日
ジャスティン・ビーバーがツイートした。
BBC、および、CNNが報じた。
9月28日 – 日本のメディアが一斉に報じた。
10月5日 – YouTubeの動画再生回数が5000万回を超えた。

 

この記載を見れば一目瞭然ですが、上田氏のPPAP商標を出願した平成28年10月5日において、「PPAP」は既に周知になっています。
いえ、周知の域を超えて著名になっています。

 

現時点(平成30年2月6日)で主にインターネット等の通信関連分野では周知になっているように感じられる。具体的に、周知になった年月日は、明確に特定はできないが、日本国内においては平成29年1月上旬から平成29年1月中旬までの間の年月日であるように思う。

事実を無視して完全に主観で書いていることが「〜ように感じられる」「明確に特定はできないが」「〜であるように思う」という記載から明らかです。

 

この私見に書いて有ることは上田氏の希望であり事実ではありません。

事実は、上述したようにPPAPが周知になったのは上田氏の商標出願前だったということです。

 

BBCやCNNなど有名テレビ局や日本の各メディアがPPAPについてこぞって取り上げ、ユーチューブでは動画が全世界で5000万回再生されたことが周知性の認定にならないのなら何を持って周知性を認定してよいのか私にはわかりません。

 

また、「条理上の理由」として「2カ月以内に周知になることは条理上考え難い。1人の有名アーティストがツイートしたからといって即、周知になるものでもない。1人の有名アーティストがツイートしたことが注目を浴びる発端になっただけであり、その後、注目されはじめて1、2カ月以内で周知になることは条理上考え難い。」と主張されていますが、この主張は条理上、私には理解できません。

 

商標というものは、コマーシャルや各種メディアへの露出により、短期間のうちに一気に有名になることはよくあります。

ジャスティン・ビーバーという有名アーティストがツイートし、数日間のうちに動画の再生回数が数千万回に達しています。
PPAPが周知になるまでに2ヶ月かかっていないのです。

数日の間に動画投稿サイトで数千万回も再生されたのなら、2ヶ月もあれば世界的に著名(周知を超える)になったと認定することに何らの不思議もありません。

 

むしろ、有名アーティストの影響力を過小評価し過ぎることこそ条理上不当でしょう。

 

ちなみに、今現在(2018年7月)においては、PPAPの商標登録を受けているのはエイベックスグループホールディングス株式会社です。
平成28年10月14日に出願され、平成29年6月9日に登録されています。

 

ベストライセンス社の出願はどうなったのかというと、出願日は平成29年10月22日に繰り下がってしまっています。

分割出願の遡及効が認められなかったようですね。

通常の分割出願の場合には分割出願の遡及効が認められるのですが、通常ではない出願(=出願料未納)をしていたわけですから、原出願が消滅したのでしょう。

特許庁、良い仕事をしますね!

 

さて、続きです。

PPAPの周知商標主がピコ太郎さんだとした場合、出願人:エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社と周知商標主:ピコ太郎さんとは、同一でないので、商標法第4条第1項第10号に関する拒絶理由の通知がなされるべきである。

 

この主張は一見正当に見えますが、こういうことはよく行われています。

たとえば、ジャニーズのアイドルグループの名前をそのアイドル自信が商標登録出願するのではなく、ジャニーズが代わりに商標登録出願したり、漫画やアニメの題名を漫画の作者ではなく、出版社が代わりに行っています。

 

④日本において、ベストライセンス株式会社の日本商標出願に係る商標「PPAP」に関し、使用意思は認められるか? この結論は、各指定商品(指定役務)毎に異なるか?
(略)
冒頭1のベストライセンス株式会社の目的及び手段(事業内容)に記載した如く、当社は公的な目的として「産業財産権の権利処理システムを確立する。」ことを目指しているとともに、私的な目的として「産業財産権の権利処理システム構築に必要な技術を研究・開発するとともに、産業財産権に関する権利処理ビジネスを通して利益を追求する。」ことを目指している。このための手段・事業のひとつとして、商標出願業務を遂行しているが、この商標出願に関しては、常に①当社使用中又は当社使用の可能性、②他社へのライセンスの可能性及び③ストック商標の確保の3点を念頭に置いている。これら3点を念頭に置きつつ魅力ある商標と感じられるものを対象にして商標出願している。当社による上記PPAP商標出願についてもこれら3点を念頭に置きつつ出願している。従って、使用意思は問題なく認められる。当社においては、この結論は、各指定商品(指定役務)毎に異なることはない。

 

「①当社使用中又は当社使用の可能性、②他社へのライセンスの可能性及び③ストック商標の確保の3点を念頭に置いている。これら3点を念頭に置きつつ魅力ある商標と感じられるものを対象にして商標出願している。当社による上記PPAP商標出願についてもこれら3点を念頭に置きつつ出願している。従って、使用意思は問題なく認められる。」

とありますが、これは、「使用意思」というよりは、「不正取得の意思」があることを暴露してしまっているのではないでしょうか・・・。

 

「魅力ある商標」とは要するに「取得しておけば高値で売りつけたりライセンスすることができる」という意味でのベストライセンス社にとって魅力的な商標ということでしょう。

そして、そうであるならば「ライセンス料を得るためにライセンスする意思」はあるでしょうが、「自らが指定商品・役務に関する業務を行い商標を付する」という「使用の意思」は無いでしょう。

商標法3条1項柱書における「使用の意思」とは、「ライセンスするために先取り的に出願すること」を意味しません。

 

⑤日本において、「PPAP」が周知になっているとした場合、ベストライセンス株式会社の日本商標出願に係る商標「PPAP」に関し、不正の目的をもって使用するものといえるか? この結論は、各指定商品(指定役務)毎に異なるか?
(略)
これを当社が出願した商標PPAPについてみてみると、上述した如く、当社は、公的な目的として「産業財産権の権利処理システムを確立する。」ことを目指しているとともに、私的な目的として「産業財産権の権利処理システム構築に必要な技術を研究・開発するとともに、産業財産権に関する権利処理ビジネスを通して利益を追求する。」ことを目指している。このための手段・事業のひとつとして、商標出願業務を遂行しているが、この商標出願に関しては、常に①自社使用中又は自社使用の可能性、②他社へのライセンスの可能性及び③ストック商標の確保の3点を念頭に置いている。これら3点を念頭に置きつつ魅力ある商標と感じられるものを対象にして商標出願している。当社による上記PPAP商標出願についてもこれら3点を念頭に置きつつ出願している。従って、上記「不正の目的」には該当しない。
尚、日本商標法においてこの登録要件に係る出願拒絶理由や登録無効理由を構成するためには、出願時と査定時の両方の時点において周知であることを要する。しかし、上述した如く、当社のPPAPの商標出願の出願時点で商標PPAPが周知でないことは明らかであるので、当該出願拒絶理由には該当しないことは明らかである。

 

⑤に関しては④に記載したことと被ります。
ベストライセンス社の商標登録出願は、流行語が商標登録される前に先取り的に出願するというものであり、不正の目的が容易に推認されます。

また、日本商標法においては両時判断されますが、上述した如く、ベストライセンス社によるPPAPの商標出願の出願時点で商標PPAPが周知であることは明らかであるので、当該出願拒絶理由に該当することは明らかです。

⑥も他と被るので⑦に進みましょう。

 

⑦日本において、ベストライセンス株式会社の日本商標出願に係る商標「PPAP」に関し、公序良俗に反する商標といえるか? この結論は、各指定商品(指定役務)毎に異なるか?
⑦上記論点(3)⑦について
(略)
よく、小生や当社の多出願に着目し、商標ゴロだとかトローラーだとかブローカーだとかの用語で否定的に捉える識者を拝見するが、小生や当社は、上記目的を掲げ健全な事業活動をしているのであり、単なるトローラーで終わることなく、社会に貢献するベストトローラーでありたいと願っている。小生や当社のトローラー的出願により、「新聞やインターネット等に掲載・公開されるよりも早く出願しなければならない。」旨のインセンティブが多くの出願人に働けば、日本商標法における大原則たる先願主義を遵守する姿勢が高まることになり、極めて肯定的な要素を持っていることを認識していただきたい。
逆に、小生や当社の商標出願がトローラー的だとの理由だけで公序良俗に反するような判断がなされる実務が確立してしまうと、「たとえ出願前に商標を公開しても、その後それから出願してもよい。」旨の出願遅延を許容するインセンティブが多くの出願人に働くようになり、出願活動の活発化と逆の否定的なインセンティブが働くようになり、必ずしも好ましいものでもない。

 

健全な事業活動をしている」「社会に貢献するベストトローラー」なる用語が出てきましたが、これも上田氏の希望に過ぎません。

特に、

「小生や当社のトローラー的出願により、「新聞やインターネット等に掲載・公開されるよりも早く出願しなければならない。」旨のインセンティブが多くの出願人に働けば、日本商標法における大原則たる先願主義を遵守する姿勢が高まることになり、極めて肯定的な要素を持っていることを認識していただきたい。
逆に、小生や当社の商標出願がトローラー的だとの理由だけで公序良俗に反するような判断がなされる実務が確立してしまうと、「たとえ出願前に商標を公開しても、その後それから出願してもよい。」旨の出願遅延を許容するインセンティブが多くの出願人に働くようになり、出願活動の活発化と逆の否定的なインセンティブが働くようになり、必ずしも好ましいものでもない。

との考えは商標法の法目的に真っ向から反対するような意見です。

 

商標法と特許法は似て非なる法律です。

上田氏の言葉の中で「商標」を「発明」に言い換えれば正しくなります
特許法は先願主義を採用しており、発明が公知になる前に出願すべきであることは当然です。

 

しかし、これをそのまま商標法に当てはめるのは的外れです。

まさか元弁理士の人が商標法を知らないわけがありませんから、「わざとこのような詭弁を弄している」としか思えません。

 

商標法は特許法と同じく先願主義を採りますが、「言葉が公知になる前に出願せよ」などとはしていません。
もしそうであるならば、既存の言葉(たとえばアップルなど)で商標登録を受けることができなくなってしまいます。

 

繰り返しますが、商標法も特許法も同じ知的財産権に関わる法律ですが、異なる目的を持つ法律です。

 

 

なお、⑦には続きとして、平成28年5月17日付で日本特許庁HPにおいて「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」という発表についての記載がありましたが、これに対して上田氏は
一部の出願人に係る商標出願に関し手数料の支払いがない旨の指摘は、好ましいものではない。出願手数料の支払いの有無は出願人の営業秘密又はプライバシーに関する事項として原則として特許庁は口外すべきではない。」としています。

 

しかし、これは特許庁側としては止むを得ない対応です。特許庁は長い間この事実を秘匿していました。

そして、あまりにもベストライセンス社が大量に出願し業務に支障が出るようになったので仕方なく異例の発表を行ったと考えられます。

この事実は出願人であるベストライセンス社の営業秘密(不正競争防止法に規定してあります)とは何らの関係もありません。プライバシー云々もちょっと的外れかなと思います。

その他論点⑧〜⑩については上述したことと重複するので省略します。

最後に、上田氏は各種メディアでバッシングを受けたことについて以下のように主張しています。

当社代表の上田育弘に対し、「商標PPAPを強奪した」「他人のふんどしで相撲をとろうとしている」等の理由で多くの放送メディアに取り上げられました。いきなり何らの予告も連絡もなく、午前中、図書館に向かっていつもの商店街を歩いている最中に、突然、複数の放送メディアから取材を受け、この取材内容が数時間後には、全国ネットでテレビ放映されるという小生にとりましても生まれて初めての経験をしました。放送メディアの即時性には驚かされるとともに自己の発言内容が日本国内のテレビやインターネットで伝えられることに一種の快感を覚えたことも事実です。

しかし、当時の放送メディアで伝えられた内容は、小生がピコ太郎さんのPPAPを盗んだということのみがクローズアップされ、スクープ狙いの興味本位で伝えられ、冒頭1(1)に記載の当社の公的な目的である「産業財産権の権利処理システムの確立」やこの「産業財産権の権利処理システムの確立」に関する上記2乃至10に記載の知的財産に関する小生の考えが全く伝えられなかったと感じております。本来、放送メディアは、中立的な姿勢で多方面からの見方を伝えるべきであり、当時、渦中の小生の真の目的であるこの「産業財産権の権利処理システムの確立」や上記2乃至10に記載の知的財産に関する小生の考えが伝えられなかったことは、放送メディアによる放送としては、やや不十分であると思っております。
(2)放送メディアの皆様へ、「PPAP商標強奪犯:上田育弘の人民公開裁判」(仮称)の放映のお願い
そこで、小生からの希望又はお願いですが、当社の公的な目的である「産業財産権の権利処理システムの確立」を明確にすることを主眼に商標PPAP等を具体例として出しつつ、上記1~12の記載内容を小生の言葉で語るための記者会見の場をセットしていただけないでしょうか。時間配分として全3時間(小生からの発表:90分、質疑応答:90分)又は全2時間(小生からの発表:60分、質疑応答:60分)ぐらいでいかがでしょうか。タイトルとしては、例えば「PPAP商標出願人:ベストライセンス(株)の真の狙い」とか、又はやや過激なタイトルとして「PPAP商標強奪犯:上田育弘の人民公開裁判」ぐらいでも構わないと思っております。もし可能であれば、パワーポイントが使用できるノートパソコン及びこのノートパソコンとつながったプロジェクター並びにハンドレスマイク等をご用意していただければ、より効率的な発表ができるように思います。もちろん、当社及び小生からの出費は一切無し(ゼロ)という条件でお願いいたします。何卒ご検討下さるよう宜しくお願いいたします。

 

・・・というわけで、各種メディア様におかれましては、上田氏に取材を申し込むと面白いかもしれません。

 

なお、上田氏の主張する「産業財産権の権利処理システムの確立」については長くなるのでまた別の機会に書こうと思います。
非常に面白いです。