図解雑学「心の病と精神医学」に記載されている統合失調症の症状に関する図が大喜利ネタ「支離滅裂な思考・発言」に使われている件で、出版社であるナツメ社が図の使用を慎むようにお願いを出しています。
弊社が2002年より出版しておりました図解雑学「心の病と精神医学」に、統合失調症の症状に関する図版の記載があります。
この図版の一部をパロディ化するなど、趣旨とは異なる形で、ツイッター等のSNSに掲載、拡散されている例が、多数見受けられます。
これらは、弊社が承認しているのものではありません。
心の病気と向き合い、回復を目指しておられる患者の方々やそのご家族、サポートしている関係者の方々へのご配慮をお願い申し上げますとともに、厳に慎んでいただけますよう、出版社として心よりお願い申し上げます。
これについて、
「図の使用を禁止するなんて不寛容だ」、「統合失調症の患者差別を助長する」という意見をチラホラと見かけたので、法的な説明をしておきたいと思います。
といっても、このブログは知財ブログですので、主に著作権法に限定します。
不寛容だという意見について
一部で、「画像を利用させないなんて心が狭い」という声が上がっています。
これは、わかります。
みんなが笑えるんだから、そこに水をさすようなことをするなという気持ちはすごくわかります。
支離滅裂な発言って笑えますし、うまいなと思う大喜利はたくさんあります。
こういうところで「著作権が〜」という話を持ち出すと、KYな人だとして白い目で見られるでしょう。
したがって、著作権侵害をしているのかもしれないと思っても、気にしないという人も多いでしょう。
また、図柄的に、この絵は医療の本から抜き出したものというより、誰かが「ご自由にどうぞ」とフリー素材として差し出しているものだと勘違いもされそうです。
しかし、誰かが著作権を有しているものを勝手に利用することは、明確な著作権の侵害となります。
複製権の侵害や同一性保持権の侵害、公衆送信権の侵害など様々な著作権を侵害することになります。
「みんなが楽しんでいるんだからいいだろう。そんなことに目くじら立てるな。」
そんな気持ちはわかります。
しかし、ネットの世界は、一度画像等が広まってしまうと世界中に再現なくコピーされて広まってしまうという恐ろしい力を有しています。
だから、著作権の侵害は個人的な利用では問題になることがないのに対し、ブログやSNSに勝手に載せるように、ネット上にアップすることは禁止されているのです。
これにプラスして、著作権法とは関係のない倫理的な問題、マナーの問題についても考えてみましょう。
他人の著作物の無断利用者のメリットと無断で画像を利用された人のデメリットを天秤にかけた場合には、後者のデメリットの方が大きいと思います。
ギャグマンガの一コマを無断転載するならば、作者の気持ちを傷つけることは少ないでしょう。
しかし、シリアスな漫画の一コマをギャグに改変してしまった場合、使われた方はショックを受けるはずです。
(人は、元がシリアスなものほど、正反対のギャグに利用したいと考えます。そのギャップから大きな笑いが起こるからです。)
この気持ちは、実際にシリアスな漫画を描いたことがある人にならば容易に理解することができると思います。
たとえば、北斗の拳や刃牙のように元がシリアスで荒唐無稽な漫画ほど、パロディとして利用したくなってしまうと思います。
そんなわけで、「出版社が画像を使わせないのは不寛容だ」と思う方は、できるだけ、その著作物を創作した人の気持ちになってみてほしいと思います。
絵は口ほどにものを言います。(意味、伝わるかな^^;
例えば、人がどれだけ文章でアイドルの美しさを述べても、見たことのない人にはその良さはなかなか伝わらないでしょう。
でも、写真を見せれば「うお、こんなに綺麗な人なんだ!」(または、「え、綺麗かもしれないけど俺好みじゃないな」)という反応が得られるわけです。
だから、ついついネットで拾ってきた画像は使いたくなってしまうと思いますが、安易に拾った画像を利用することはトラブルの元です。
著作権のある画像等を無断で利用する場合は基本的には著作権侵害です。
・・・しかし、ここからは著作権法の話ではなく、私の個人的な考えなのですが、傷つく人が全くいないのなら勝手に画像を使ってもOK、傷つく人が一人でもいる虞(おそ)れがある場合はアウトだと思います(フェアユースのようなもの)。
何でもかんでも著作権侵害だと言っては、息苦しくなってしまいます。
上述したように「不寛容」ですし、文化の発展に寄与しません。
だからといってなんでも自由に使っていいよというのも、それによって傷つく人や経済的に不利益を受ける人がいるので好ましくありません。
ですから、画像の無断利用に関しては、「これは絶対に駄目」というよりも、「その著作物を勝手に使われる相手の気持ちになって考えてみて、特に痛みを感じないなら使っても良さそう」という小学校の道徳のような簡単な倫理で判断することも面白いでしょう。(推奨はしません。何度も述べたとおり、無断利用は著作権侵害ですから)
たとえば、今、同人誌の販売は「グレー」と言われています。
しかし、中には「同人大好き!どんどんやってください」という作者さんもいますし、
「エロだけはやめて・・・」という作家さんや「どんなパロディも一切嫌だ」と考える作者さんなど、いろいろな考え方の原作者さんがいらっしゃいます。
そして、彼ら・彼女らの意向を最大限に尊重するというのが、著作権のうちの人格権を保護するのにふさわしいと考えます。
もう一人の傷つく人
ここで、今回の事件に関してはもう一人傷つく人がいます。
それは、統合失調症の患者です。
大喜利ネタ「支離滅裂な思考・発言」では、統合失調症の患者のような発言を笑いものにしています。
これは、著作権の侵害とはなりません。
しかし、倫理的な問題があります。
ここでも著作権侵害のときと同じように、「誰か傷つく人がいるのだったら、それをネタにして笑うべきではない」という小学生の道徳の話が通用するでしょう。
この世には「支離滅裂な思考や発言」をする人が一定数存在します。
そして、その人達を差別することは、「いじめ」に繋がります。
笑いというものは奥が深く、「面白い」と感じる気持ちの中にもシニカルな笑いや純粋な笑いなど様々なものがあります。
そして、誰か、心を傷つける人がいるのならば、それは禁断の笑いだと思います。
シリアスな議論でシリアスに議論をぶつけるのは正当な行為です。
しかし、シリアスな悩みを本人ではなく他人が笑うというのは倫理的に考えて好ましいものとは言えないでしょう。
というわけで、今回は著作権の侵害と倫理の問題の2つを取り上げてみました。
これらの問題を解決するきっかけとしては、著作権法の正しい知識と思いやりの気持ちが広まることなのでは、と思います。