3日前に「仏壇じまい」を使うと商標権の侵害となるのかという記事をかきました。

その記事に追記として、「裏切り出願(私が勝手に命名しました)」の例を挙げました。

 

そして、「現在、実際に裏切り出願が起きている事例はないかな」と考えたときに「VTuber」や「VirtualYouTuber」「バーチャルライバー」「DigitalYouTuber」の商標登録出願に思い至りました。

 

念のために説明をしておくと、VTuberというのは、バーチャルアイドルのユーチューバーのことです。短期間のうちに一気に広まった用語です。

 

「VirtualYouTuber」、「VTuber」、それからキャタクター名の「キズナアイ」などの商標は、無関係と思われる第三者によって商標登録出願がされています。

もしこれらの商標が登録されてしまうと、商標権者以外の人はVTuberなどを使用できなくなる恐れがあります。

 

そのため、VTuber(の中の人)たちはこの商標登録出願が登録されてしまうことを危惧しています。


商標を登録する目的は、必ずしもその商標を独占したいというわけではなく、同業者が安心して使えるようにとの思いから行われることもあります。

 

ですから、現段階では、「商標登録されたら即、みんなが使えなくなる」とは言い切れません。

 

しかし、VTuberとして活動してきたキャラクターがある日突然VTuberと名乗れ無くなり、名称を変更しなければいけない自体になる可能性は十分にあります。

 

もし、「VTuber」等の商標登録出願人たちが、「みんなのために」という意思を持っているのだったら大丈夫です。

 

しかし、全員が全員そんな良い子ちゃんでしょうか?

 

商標登録にはお金がかかります(最低でも40200円。出願料12000円+登録料28200円)。

わざわざ身銭を切って他者のため、業界のために商標登録をするでしょうか?

「VTuber」等の魅力的な言葉を独占したいと思って商標出願しただけなのではないでしょうか。

 

だって、もし「業界のため」なら勝手に商標出願するのではなく、クラウドファンディングで資金を募って出願などできるだろうし、事前または後発的に声明を出すはずですよね。「皆さん大丈夫ですよ。心配する必要ありませんよ」って。

 

なお、仏壇じまいの場合は、言葉を独占したいという意図がありました(お寺に警告していることや「経営戦略上」という発言から明らか)。

 

というわけで、私は「VTuber」等の商標出願は「裏切り出願」の可能性があると思っています。

(繰り返しますが、この「裏切り出願」という言葉は私が勝手に命名しただけで法律用語ではありません)

 

業界内で日常的に使われるようになった言葉を先取り的に出願して、一部のものだけが独占しようとするこの裏切り出願は、商標法の目的に反する行為だと言えます。

 

とはいっても、「裏切ってはいけない」という規定が商標法にあるわけではありません。

商標法では様々な規定で不適切な出願を拒絶しています。

 

たとえば、「VirtualYouTuber」に関しては、かなり浸透してきた言葉なので、商標法3条1項3号で拒絶される可能性があります。

また、登録商標「YouTube」が著名商標なので、商標法4条1項15号で拒絶される可能性もあります。

 

 

「VirtualYouTuber」などが拒絶されれば問題はないのですが、登録されてしまった場合は面倒なことになります。

活動が制限されてしまいますから。

 

したがって、もし「VirtualYouTuber」などが商標登録されてしまったら、まずは特許庁に異議申立て(登録後二ヶ月以内に誰でも異議を申し立てることができる制度)をすると良いでしょう。

それでも特許庁の結論が覆らなかったら仕方ありません。

「VirtualYouTuber」を使わずに別の名称で活動するしかないでしょう。

 

 

関係他社を不安の渦に陥れる「裏切り出願」。

協業秩序のためには、決して好ましいものとは思えません。

 

「みんなのために」出願するのでない限り、このような商標出願は控えるべきでしょう。

会社名や個人名が出てしまうので、ブランディングとしてもマイナスです。

 

ベストライセンス社による商標の先取り出願も大きな社会問題となりましたが、このような裏切り出願も問題です。